研究ジャーナル

研究テーマに関する書籍,論文の読書ノートです。


*現在,開店休業中です。(2018/04/01)

*現在,「研究ジャーナル」で一部再開中です。(2022/04/01)

2017年11月

Fukuda, S., Sakata, H., & Pope, C. (in press). Developing self-coaching skills in university EFL classrooms to encourage out-of-class study time. Innovation in Language Learning and Teaching, 18.


日本のようなEFL環境で英語を学ぼうとする場合,学校での授業だけでは到底十分ではない。つまり,授業外での自学自習をどのように促進するかというのは重要な課題となる。本論では,セルフ・コーチングのアプローチを用いて,そのようなスキルは英語学習に応用できるのか,また結果として授業外での自習時間を伸ばすことができるのかについて調査している。「自律学習」や「自律した学習者の育成」というのは理論的な話で終わることが多いが,本論はそのようなトピックを実際の教育場面でどのように具体化できるのかヒントを与えてくれる。


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Henry, A. (2017). L2 motivation and multilingual identities. Modern Language Journal, 101, 549-565.


多/複言語,多/複文化が急速に進展する社会にあって,第二言語の動機づけ研究はいまだに「英語」という一言語だけを話す/使用する人(いわゆるモノリンガル)を念頭に置いた思考様式に支配されている。本論では,DörnyeiによるIdeal L2 Selfの枠組みを拡張させたIdeal Multilingual Selfという新たな概念を提案し,それが近年の社会的,学問的な動向といかに呼応したものであるかを理論的に考察している。


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山中伸弥,他 (2017). 『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』 東京: 文春新書.


各分野で活躍する研究者や映画監督などとの対談をまとめたもの。結局は,自分が夢中になれるもの,面白いと思うものを見つけ,変わらぬ情熱を持って,それに取り組み続けることが大事ということ。


2017年10月

Chang, L. (2010). Group processes and EFL learners’ motivation: A study of group dynamics in EFL classrooms. TESOL Quarterly, 44, 129-154.


本論は,グループダイナミックス(集団の結束性や規範)とその集団に属する成員の動機づけ(自己効力と自律性)の関連を調査したもので,著者の博士論文の一部がもとになっている。台湾の大学で英語を学ぶ学生152名を対象としたアンケート調査,ならびに異なる特徴を有すると判断された学生12名を対象としたインタビュー調査を実施した結果から,両者には一定程度の関連が見られること,すなわち,いわゆる「やる気の伝染」が確認された。一方で,インタビューの結果からは,動機づけに最も強い影響を与えるのは周りの他者ではなく自分自身(の意思)であること,またグループの影響はより年少の方が大きい可能性があることなどが指摘されている。今後,類似した研究に取り組む上で参考になる点が多い。


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Aubrey, S. (in press). Inter-cultural contact and flow in a task-based Japanese EFL classroom. Language Teaching Research, 21.


本論は,フロー経験とスピーキング活動へのエンゲージメントとの関連を調査したもの。日本人同士のやり取り(intra-cultural contact)と留学生とのやり取り(inter-cultural contact)を比較し,それらが先述した要因間の関連に与える影響についても調べている。フローについては質問紙(Egbert, 2003)による調査,スピーキング活動へのエンゲージメントについては活動時の発話数とターンテイキングの数によって操作化を行った。結果として,調査参加者は留学生とのやり取りにおいて,フローをより頻繁に経験し,さらに活動中のターンテイキングもより多く行う傾向にあった。本論ではその結果を踏まえ,教室内において異文化間接触の機会を確保することの重要性やフローを高める可能性を持つタスクの特徴などについて議論している。


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Aubrey, S. (2017). Measuring flow in the EFL classroom: Learners’ perceptions of inter- and intra-cultural task-based interactions. TESOL Quarterly, 51, 661-692.


本論は,Aubrey(in press)のfollow-up調査に当たるもの。先の論文は質問紙などを中心とした量的アプローチに基づく調査結果を報告したものだが,本論は介入中に実施されたダイアリーの内容分析を中心とした質的アプローチに基づく調査結果を報告したもの。結果として,先のAubrey(in press)と同様,異文化間接触の機会を多く持った学習者グループの方がフローをより頻繁に経験していたことを指摘している。ダイアリーの分析を踏まえ,教室においてタスクをどのようにデザインすることにより,学習者のフロー経験を促進できるかが検討されており,指導実践の観点からも示唆に富む。


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Lowie, W., Dijk, M., Chan, M., & Verspoor, M. (2017). Finding the key to successful L2 learning in groups and individuals. Studies in Second Language Learning and Teaching, 7, 127-148.


本論は,ダイナミックシステム理論を用いた典型的な研究例。約10ヵ月にわたって2名の英語学習者のライティングとスピーキングの発達変化を縦断的に検討している。ユニークな点は,双子の学習者を対象とすることで,両者における違い(言語適性,性格,学習開始年齢など)を最小限に抑えているにもかかわらず,ライティングとスピーキングの変化には大きな相違が見られたこと。第二言語の発達プロセスは個々の学習者によって大きく異なることに改めて気づかされる。


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Lou, N., et al. (in press). Complementary perspectives on autonomy in self-determination theory and language learner autonomy. TESOL Quarterly, 51.


本論は,同じくTQに掲載されたLee(2017)に対する批判的論考をまとめたもの。自律学習と自己決定理論の研究文脈における「自律」(autonomy)概念の捉え方について,Lee(2017)は不正確,不十分な解釈がなされていること,またその理由や根拠を具体例を挙げながら説明している。「公開処刑」をしている(されている)ようで,あまり好感は持てない。


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Sugita, M., Sawaki, Y., & Harada, T. (2017). Foreign language learning motivation in the Japanese context: Social and political influences on self. Modern Language Journal, 101, 533-547.


本論は,これまでの主要な動機づけ理論をidentityとselfの観点から整理し,3つの代表的な枠組み(統合的動機づけ,内発的動機づけ,理想の第二言語自己)を統合的に用いて,英語以外の外国語を学ぶ学習者の動機づけを調査したもの。さらに,日本における英語の地位といった社会・文化的な要因が先の動機づけに与える影響についても検討している。しっかりとした文献研究に基づいてRQを設定し,理論や先行研究から想定される仮説(モデル)をSEMによる分析を通じて手堅く検証している本論は,論文の構成や展開の仕方を学ぶ上でも参考になる点が多い。


2017年9月

Singleton, D. (2017). Language aptitude: Desirable trait or acquirable attribute? Studies in Second Language Learning and Teaching, 7, 89-103.


本論は,言語適性研究の変遷について簡潔にレビューしたもの。近年,Wen, Biedron & Skehan(2017)などでも類似した試みがなされているが,本論はとりわけ言語適性の可変性に焦点を当てている。従来の研究では,適性は「生得的で安定したもの」といった適性観に基づくものが多かったが,近年のワーキングメモリ等を含めた新しい適性観では,適性はある程度トレーニングが可能だといった捉え方が増えつつある。ワーキングメモリは言語習得のプロセスに幅広く関与しており,学習者の年齢や習熟度,言語スキル,学習環境の如何を問わず,第二言語習得に関する適性において中心的な位置づけを担っている。そのような特性の指導可能性について検討するといった近年の適性研究は,これまで以上により実践的示唆に富む研究へと発展・深化している。


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Ushioda, E. (2017). The impact of global English on motivation to learn other languages: Toward an ideal multilingual self. Modern Language Journal, 101. 469-482.


本論は,タイトルにもあるように,いわゆるGlobal Englishというものが英語以外の言語を学ぶ動機づけに与える影響について,理論的に考察したもの。British Councilによれば,英語は現在約17億人(世界人口の約4分の1)に使われている。結果として,英語はあらゆる分野でその影響力を増して(あるいは維持して)おり,そのことは第二言語の動機づけ研究においても当てはまる。例えば,Boo et al.(2015)が行った調査においても,ここ10年間に出版された動機づけ研究(214編)のうち,約72%が目標言語として英語を学ぶ学習者の動機づけを取り上げたものであった。そのような現状を本論では批判的に検討している。より具体的には,multi-competenceなどの概念を援用しながら,「L2 = 英語」といった狭い捉え方から脱却し,多言語/多文化を学ぶ学習者としての(ideal)multilingual selfといった新しい概念を取り入れることの必要性や意義について議論している。


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松村昌紀(編)(2017)『タスク・ベースの英語指導-TBLTの理解と実践』東京: 大修館書店.


本書は,日本のようなEFL環境でタスク・ベースの英語指導がいかに展開できるかを体系的に検討したもの。タスクやタスク・ベースの指導に関する基本事項を確認した後,第二言語習得や教育思想との関連,タスク・ベースの指導にまつわる誤解や疑問点に対する著者らの考えなどが述べられている。続く後半では,小学校から大学の英語授業において,実際にタスク・ベースのコンセプトをどのように指導に活かすことができるかを具体例を挙げながら検討している。


本書の英語サブタイトルには「Principles and Practices of TBLT」とあるが,日本語では「TBLTの理解と実践」(下線部は引用者による)となっている。本来であれば,「理論と実践」あたりが一般的だと思われるが,このことは著者らがとにかく(まずは)TBLTについて正しく,深く「理解」してほしいと強く願っていることの現れではないかと感じた。とりわけ,本書の最終章(タスク・ベースの指導を導入することに伴う認識や価値観の転換について考察している)からは,その熱い想い(本気度)が伝わってくる。


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Smith, L., & King, J. (2017). A dynamic systems approach to wait time in the second language classroom. System, 68, 1-14.


本論は,学習者が発話するまで教師が待つ時間(wait time)が教室における談話パターンやターンテイキングなどのやり取りにいかに影響を与えているかを,ダイナミックシステム理論の枠組みから調査したもの。これまで教師と学習者,あるいは学習者同士のやり取りを分析した研究(いわゆる談話分析などを用いたもの)は数多く行われてきたが,それらの多くは特定の談話自体(談話のみ)に焦点を当てており,なぜそのような談話が行われたのか,その背景や原因についての考察は必ずしも十分ではなかった。そのような現状に対して,本論は教師による待ち時間が長ければ長いほど,学習者が起点となった,しかもより長い発話が行われる傾向にあることなどを明らかにしている。教室での指導実践に対して示唆に富むだけでなく,実際に談話が行われる「コンテクスト」に目を向けることの重要性を改めて気づかされる内容となっている。


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Suzuki, Y., & DeKeyser, R. (in press). The interface of explicit and implicit knowledge in a second language: Insights from individual differences in cognitive aptitudes. Language Learning, 67.


本論は,第二言語習得研究の中でもとりわけ活発に議論が行われ続けているテーマの1つである,明示的知識と暗示的知識のインターフェイスについて実証的に検討したもの。これまでの研究では,暗示的知識の発達において,明示的知識は促進的な役割を担うと主張するものが多いが,このことを実証的に調査した研究は(暗示的知識を正確,かつ妥当に測定するテストが存在しないなどの理由から)ほぼ報告されていない。本研究はこのギャップを埋めようとしたものであり,精緻に計画,実施された調査の結果,上記の仮説を支持する結果を得ている。より具体的には,自動化された明示的知識(著者らが新たに提案する概念)は明示的学習のメカニズムを促進するものであり,結果として暗示的知識の習得に影響を与えること,さらに自動化された明示的知識の習得には明示的な言語適性が重要な役割を担うことを指摘している。今後,類似した調査が行われることにより,言語適性と明示的知識/暗示的知識の関係(相互作用)についてもより理解が深まるものと期待される。


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Sasaki, M., Kozaki, Y., & Ross, S. (in press). The impact of normative environments on learner motivation and L2 reading ability growth. Modern Language Journal, 101.


本論は,日本人大学生のリーディング力が1年間を通じてどのように変化するのか,またその変化に周りの学習環境や第二言語学習に必ずしも関連しない動機づけ要因(例えば,career aspirationsなど)がどのように影響を与えているのかを,混合研究法のアプローチを用いて調査したもの。結果として,リーディング力における個人の「伸び率」には統計的に有意な差が見られなかった一方,所属するクラスによってはその差が確認された。具体的には,より高いN-APP(normative aspirations to professional pursuits)を持った集団に属していると認識しているクラスの方が,より顕著なリーディング力の伸びを示していたことが明らかとなった。本論は,いわゆる「やる気は伝染する」という現象を,これまで関連分野で行われてきた理論研究や構成概念をうまく援用して調査したものであり,結果的に筋のいい解答を導き出している。


2017年8月

Hlas, A., Neyers, K., & Molitor, S. (in press). Measuring student attention in the second language classroom. Language Teaching Research, 21.


本論は,第二言語学習者が授業中に注意力を欠如する(attention lapse)場合,それはどんな場面でどのくらいの長さにわたって生じるものなのかを実験的に調べたもの。調査の対象になったのは,主としてスペイン語を学ぶ17のクラス,計274名,またそのうち32名に対しては集団でのフォーカス・インタビューも行われた。アンケートなどの回答をリアルタイムで徴収する用具であるクリッカーを用いた調査の結果,75分授業と50分授業の間には差が見られたが(前者の方がより頻繁に注意力の欠如が見られた),朝早い/夜遅い,初級クラス/上級クラス,大人数クラス/少人数クラスなどの間には顕著な差は見られなかった。また,注意力が散漫になるのは主に1分以下の間であり,疲労や他に考えることが多くあったり,他の授業との関連などを考えていたなどの理由が挙げられた。


注意力の欠如が生じるのは,ただ単に授業の時間が進むほどに起こりやすくなるわけではなく,取り組む課題の特質やその(授業中での)タイミング,または課題に取り組む長さによっても影響を受けていることが明らかとなった。教師によってコントロール不可能な要因(疲労など)もある一方,上記のようにコントロール可能な要因もあるということは,教師側の指導方法により,生徒の注意力を高め維持することが可能であることを示唆する。今後,関連する研究が行われることで,さらに実践的なヒントが得られるようになればと考える。


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鳥飼玖美子(2017)『話すための英語力』東京: 講談社.


日本人が英語を話すことが難しい理由を時間,距離,外国語不安の観点から整理し,どうしたら「話せる」ようになるかを一般読者向けに書き下ろしたもの。議論のベースとなっているのは「コミュニケーション方略」の考え方。前著『本物の英語力』はどのように英語を学ぶのかといった「学習方略」に焦点を当てていたのに対して,本書は実際のコミュニケーション場面で使える方略(場,参与者,目的がキーワード)を豊富に紹介した,より実践的な内容となっている。


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Serafini, E. (2017). Exploring the dynamic long-term interaction between cognitive and psychological resources in adult second language development at varying proficiency. Modern Language Journal, 101, 369-390.


学習者の言語適性(ワーキングメモリ)と動機づけの間には,時間の経過や習熟度の違いに応じて,互いに”supportive, conditional, competitive, and compensatory”(p.382)な相互作用が見られたことを,主として相関分析に基づき明らかにしている。とりわけ,これまで言語適性については,学習の初期には音韻識別力,後期にはワーキングメモリ(記憶の処理・保持)がより重要になることは指摘されてきたが(e.g., Skehan, 1989, 1998),動機づけにおいても学習段階によって影響力を持つ動機づけ特性が異なるという指摘は,言語習得プロセスと学習者の心理的特性とのインターフェイスを考える上で重要な視点。また,論文の書き方という点においても,自分の研究を関連する研究の中にうまく位置付けており,参考になる点が多い(ちなみに本論は,著者の博士論文の一部)。


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Serafini, E., & Sanz, C. (2016). Evidence for the decreasing impact of cognitive ability on second language development as proficiency increases. Studies in Second Language Acquisition, 38, 607-646.


本論は,学習者の第二言語における習熟度と言語適性(ワーキングメモリ)との関連を検討したもの。第二言語としてスペイン語を学ぶ英語母語話者87名を対象として,約半期間にわたって指導を行い,その間の3時点でワーキングメモリや文法知識に関するタスクを行わせた。分析の結果,介入開始時ならびに介入後,初級学習者においてのみ,両者の間に有意な関係が確認された。この結果に基づき,著者らはワーキングメモリなどの言語適性は学習者の習熟度が上がるほど,その影響力は少なくなる可能性があること,このことは学習者の発達段階によって,言語適性は異なった役割を果たすというこれまでの知見を支持するものであることを指摘している。


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Storch, N., & Aldosari, A. (2012). Pairing learners in pair work activity. Language Teaching Research, 17, 31-48.


言語習得においてペアワークが果たす役割については,理論・実践の両面からその重要性が繰り返し指摘されている。ただし,習得度の異なる学習者が混在することの多い教室場面において,どのようにペアを組むのが良いのかについては,いまだ明らかでない点が多い。そのような現状を踏まえ,本研究では習熟度が同じ(High-High, Low-Low),あるいは異なる(High-Low)ペアがどのようにライティングタスクに取り組むのか,その様子を録音,文字起こしし,Storchが提案するペアにおけるインタラクションパタンの枠組みから分析している。その結果,習熟度はタスクのパフォーマンスに影響を与えていたものの,それと同様(あるいはそれ以上)にタスクの目的によって,ペアの影響は異なることが示唆された。より具体的には,タスクの目的が流暢性を高めるためであれば,Low-Lowなどのペアリングの方がより自由なインタラクションが期待できること,その一方で正確性を高めるのが目的であれば,High-Lowなどのペアリングの方が言語形式に注意が向くフィードバックが生じる可能性が高いことを指摘している。今後,追試研究を含め,類似した調査結果の蓄積が期待される分野の1つだと考えられる。


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Anderson, J. (2017). A potted history of PPP with the help of ELT Journal. ELT Journal, 71, 218-227.


近年,タスクベースの言語指導(いわゆるTBLT)に対する関心が高まっているが,それでもなおPPPモデル(いわゆる提示-練習-産出といった手順による指導)に対する人気は根強い。本論では,これまでELT Journalに掲載されてきた論文の量的,質的傾向なども踏まえ,1980年代以降のPPPモデルに関する議論を歴史的変遷とともに簡潔にまとめている。PPPの起源や支持・反対する立場の主な論拠だけでなく,反論があるにも拘らず,なぜPPPがこれまで長きにわたって理論,実践,テキストなどにおいて「生き残って」きたのか,その理由の一端を垣間見ることができる。


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鈴木渉(編)(2017)『実践例で学ぶ第二言語習得研究に基づく英語指導』東京: 大修館書店.


日本語で読める「教室内第二言語習得研究」(ISLA)の最前線。各分野において国内外で活躍する研究者らが,とりわけ教室での英語指導を念頭に置いて書き下ろした解説書。実際に教室で使えるアクティビティの例が豊富に紹介されているだけでなく,各章末にディスカッション・クエスチョンや文献案内も添えられており,関連する講義のテキストとしても使いやすくなっている。


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奈須正裕(2017)『「資質・能力」と学びのメカニズム』東京: 東洋館出版社.


今回の新学習指導要領の改訂に深く関わったとされる著者が,その背景も含めながら分かりやすくまとめたもの。個人的に,新しい学習指導要領でとりわけ注目しているのは,育成を目指す資質・能力の3本柱の1つである「学びに向かう力,人間性等」。学習や指導・評価の対象として,このような「非認知的能力」(平たく言えば,動機づけ)が位置づけられるというのは,これまでの学習指導要領にはなかった視点。「教える」といった観点から「学ぶ」といった観点へのパラダイムシフトは,教育学,心理学などの研究分野ではすでに何十年も前に起こっている。このような動きが学校教育の場でも起こり得るとすれば,それは大いに歓迎すべきことだが,そのためにはまず教師一人ひとりの認識や発想の転換が必要になる。


2017年7月

Halvorson, H. (2012). Nine things successful people do differently. Brighton, MA: Harvard Business School Press.


近年の目標達成や意志力に関する研究の成果を,一般の読者向けに分かりやすく解説したもの。従来の固有的,生得的な才能(知能)観ではなく,可変的,拡張的なそれに基づき,自ら目標を設定し,強い意志を持ってやり遂げることができる人たちが実践する思考パターン,行動パターンを9つの観点から紹介している。動機づけ研究の第一線で活躍する傍ら,「ハーバードビジネスレビュー」や「サイコロジー・トゥディ」などにも数多く寄稿している著者がまとめた本書は,これまでの自己啓発的な内容の書籍とは一線を画すものとなっている。


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Ellis, R. (Ed.) (2016). Becoming and being an applied linguist: The life histories of some applied linguists. Amsterdam: John Benjamins.


近年の第二言語習得研究では,社会的コンテクストを含めて第二言語学習を理解しようとする「社会的アプローチ」が用いられる傾向にある。そのようなアプローチのもとでは,研究の対象者に自らの体験・経験を主観的に語ってもらう「ナラティブ研究」といった手法が取られることが多い。本書は,応用言語学の研究分野を代表する著名な研究者13名(具体的には,Rod Ellis,I.S.P. Nation,J.Charles Alderson,Peter Skehan,Zoltán Dörnyeiなど)を対象にして,ナラティブ研究の手法を用い,彼らがどのようにして応用言語学者になったか,応用言語学者であるとはどういうことか,また自身はどのように応用言語学研究を行ってきたのかについて,それぞれのライフヒストリーを精緻に記述・考察している。随所でナラティブ研究の利点,有効性が感じられるだけでなく,応用言語学という学問自体の立体的広がりも見て取ることができる。「読み物」という観点からも,読み応えのある一冊となっている。


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Leow, R., & Donatelli, L. (2017). The role of (un)awareness in SLA. Language Teaching, 50, 189-211.


本論は,第二言語習得研究における「気づき」(awareness)の役割に焦点を当てたもの。これまで約30年にわたって行われてきた研究をプロセスとプロダクトの観点から,時間軸に沿って包括的に整理・考察している。「気づき」という心理言語学的現象は,第二言語習得を考える上で非常に重要な役割を果たしている。本論は,そのような構成概念を理論的,実証的,あるいは方法論的に検討する上で,参考になる資料を提供している。


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Bower, K. (in press). Explaining motivation in language learning: A framework for evaluation and research. Language Learning Research, 45.


本論は,ダイナミックシステム理論の観点に基づき,質的あるいは混合研究法を用いた動機づけ研究を実施するための理論的枠組みを提案したもの。その上で,CLILによる外国語指導が学習者の動機づけに与える影響をイギリスの3つの学校を対象に調査し,提案された枠組みの適用可能性について検討している。近年の新しい動機づけ研究の動向を踏まえ,ただ単に「動機づけ概念」の再構築を目指しているわけではなく,動機づけを「調査・研究する枠組み」自体の再構築を志向しているというのが本論のユニークな点。


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Jackson, J. (2016). The language use, attitudes, and motivation of Chinese students prior to a semester-long sojourn in an English-speaking environment. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 4-33.


留学に関する研究では,留学前後の言語的,非言語的変化を扱ったものや留学中での経験に焦点を当てたものが多く見られる。それに対して,本研究は留学前の段階に着目し,対象となった学習者がどのような目的や期待,あるいは不安などを抱えていたかを外国語学習に対する態度や動機づけとの関連から調査している。留学プログラムにおける事前研修の重要性はしばしば指摘されるが,本研究のような取り組みはそのような研修の実施に際して,より具体的なヒントを与えるものと考えられる。


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Schwieter, J., & Klassen, G. (2016). Linguistic advances and learning strategies in a short-term study abroad experience. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 217-247.


本論は,短期間の留学経験によって,留学経験者の言語的な発達(語彙や文法など)にはどのような変化が見られ,その変化と学習方略の使用にはどのような関連があるのかを調査したもの。留学の前後で,留学経験者は使用する学習方略を文法の正確性を重視したものから,よりコミュニケーションを重視したものへと変化させていた可能性があることを「U字型発達曲線」の観点から考察している。


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Cigliana, K., & Serrano, R. (2016). Individual differences in U.S. study abroad students in Barcelona: A look into their attitudes, motivations and L2 contact. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 154-185.


留学が言語面,非言語面に肯定的な影響を与えることに異論をはさむ余地はないが,必ずしも留学経験者がみな同様の成果を上げるわけではなく,そこには個人差が伴う。本論では,個人差を形成するいくつかの代表的な要因を取り上げ,それらのうちどの要因が留学の成果により大きな影響を与えるのかを調査している。スペインのバルセロナに留学していた54名のアメリカ人大学生を対象にした調査の結果からは,目標言語に対する肯定的な態度や統合的動機づけは目標言語とどの程度接触する機会を持つかに影響を与え,そのことが結果として,言語面の伸びに対する認識に影響を与えていた可能性があることを指摘している。


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山中伸弥・伊藤穣一 (2016) 『「プレゼン」力-未来を変える「伝える」技術』 東京: 講談社.


この時代,いわゆる「プレゼン(テーション)」は至るところに溢れている。その結果,聞く方の耳もこなれてきている。本書は,そのような時代にあって,いかに相手に伝わる・伝えるプレゼンを行うかに焦点を当て,これまでの著者らのプレゼンにまつわるエピソードや,優れたプレゼンを可能にする具体的かつ実践的な技術などを紹介している。山中先生曰く,「研究者の仕事は研究内容が50%,それをどう伝えるかが50%」。いくら良い研究をしても,相手に伝わらなければ,それはあまり意味がない。相手(聴衆)に寄り添ったプレゼンの重要性を考えるきっかけとなる良書。


2017年6月

Kobayashi, Y. (in press). ASEAN English teachers as a model for international English learners: Modified teaching principles. International Journal of Applied Linguistics, 27.


近年,どのような英語を学び教えるかといった議論の中で,いわゆる英語母語話者が用いる英語ではなく,リンガフランカとしての英語,国際語としての英語,World Englishesなどの役割に注目が集まっている。本論は,アジア圏で英語を教える際に留意すべきポイントをまとめたKirkpatrick(2014)の「リンガフランカ・アプローチ」の原則に基づき,マレーシアの大学教育機関に所属する英語教師や責任者を対象としたインタビュー調査の結果を報告している。データ分析の結果,上記アプローチが提唱する原理・原則とマレーシアの教育現場の間には一部相違点(リンガフランカとしての英語だけでなく,標準イギリス英語を支持する風土も強い)なども見られ,結果として,修正版の「リンガフランカ・アプローチ」の原則を提案している。


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Massa, L., & Mayer, R. (2006). Testing the ATI hypothesis: Should multimedia instruction accommodate verbalizer-visualizer cognitive style? Learning and Individual Differences, 16, 321-335.


本論は,認知スタイルの違いによって,指導法を変えるべきか否かを計3つの実験を通じて検証したもの。コンピュータを用いた介入において,文字あるいは絵によるフィードバック(指導法の操作化)を行った結果,対象となった被験者は言語型(verbalizer),視覚型(visualizer)のいずれかに分類可能なことは確かめられた一方,各スタイルに応じた介入の効果(いわゆるATI)は確認されなかった。一般に,文字(だけ)よりも絵や図などを伴った学習の方がより効果が見込めるというのは想像に難くないことからも,実験の手続きにおいて,やや妥当性に欠ける面もあるように思われる。


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Tragant., E., Munoz, C., & Spada, N. (2016). Maximizing young learners’ input: An intervention program. Canadian Modern Language Review, 72, 234-257.


EFL環境で学ぶ英語学習者にとって,大きな課題はいかにインプットの「量」と「質」を確保するかということ。本論は,スペインで外国語として英語を学ぶ小学生を対象に約一年間にわたって教育介入を行い,その効果を検証したもの。介入の中身としては,オーディオブックを用いたリーディング/リスニング活動による理解中心の教授法(週2コマ,90分)と教師による指導(週1コマ,60分)を組み合わせたもの。結果として,言語面の伸びだけでなく,英語学習に対する肯定的な態度など心理面においても効果が確認された。年少の学習者はとりわけ音を聞き分ける能力に秀でている。彼らの特性を十分に活かすためには,文字の指導に加えて,音声を取り入れた指導をより充実させていくことが重要だということが,本研究の結果からも示唆される。


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三宅義和 (2017). 『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』 東京: プレジデント社.


昨年出版された『対談!日本の英語教育が変わる日』(三宅, 2016)に続く第2弾。趣旨は前回と同様,イーオン社長・三宅義和氏とさまざまな分野で活躍している11人の著名人との間で行われた対談を1冊の本にまとめたもの。「学習指導要領」改訂で日本の英語教育はどう変わるのか,ドコモのオンラインサービス「gacco」が日本の教育にもたらす可能性,これからの大学教育とグローバル人材育成など,読み物としても興味深いトピックが数多く取り上げられている。ちなみに,本学の大六野耕作先生(明治大学副学長)も対談に登場している。


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An, D., & Carr, M. (in press). Learning style theory fails to explain learning and achievement: Recommendations for alternative approaches. Personality and Individual Differences, 117.


学習スタイルに関する研究の課題や問題点を3つの観点(理論的枠組みの曖昧さ,測定に伴う妥当性・信頼性の欠如,学習成果との間に見られる一貫しない関係性)から述べ,それらの克服や改善に寄与すると著者らが考えるいくつかのアプローチについて紹介している。「熟達者-初学者」や「完璧主義」といった新たな考え方を取り上げているが,いずれも従来からある概念のラベリングを張り替えただけのようにも感じられる。


参考になる点もあるが,本質的な議論としては,学習スタイルを考慮した指導がそのまま学習成果の改善につながるほど,物事は単純ではないということ。同様のことは,関連する概念である学習動機や学習方略にも言える。学習の成果を規定する要因にはさまざまなものがあるはずで,その中から学習スタイルだけを取り出してきて,そこを操作すればどうにかなるというのはあまりにもナイーブ。こういった考え方をもとにして,学習スタイル概念に見切りをつけてしまうようなことがあるとすれば,それはとても勿体ないように感じる。なぜなら,学習者を観察する「ものの見方」の1つとして,学習スタイルという考え方は非常に直感的で,感覚的にも分かりやすい概念だから。


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Gkonou, C., Mercer, S., & Daubney, M. (2016). Teacher perspectives on language learning psychology. Language Learning Journal, 45, 1-13.


近年,第二言語学習の心理学(language learning psychology)への関心が高まっている。関連する国際学会が開かれたり,ジャーナルでの特集号が組まれたりする一方,研究の多くは学習者を対象としたものである。本論はそのような現状を鑑み,ヨーロッパ3ヵ国(ギリシャ,ポルトガル,オーストリア)の外国語教師311名を対象に,彼らがそれぞれのコンテクストにおいて,指導上,どのような心理的要因を重要視しているかを検討したもの。アンケートとインタビューによる2つの調査結果から,動機づけやWTCなど教師が重要と考え,研究も多く行われている要因がある一方,グループダイナミックスのように教師らが重要と考えているにも関わらず,十分な研究が行われていない要因もあることが明らかとなった。


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Wigglesworth, G., & Storch, N. (2009). Pair versus individual writing: Effects on fluency, complexity and accuracy. Language Testing, 26, 445-466.


ペアによるライティング活動がライティングのパフォーマンスに与える影響をFCA(流暢さ,複雑さ,正確さ)の観点から検証している。分析の結果,ペアワークによる効果は正確さの向上には見られたものの,流暢さ,複雑さにはそれほど影響を与えなかったことを明らかにしている。ペアでの学びを分析する視点はいくつかあるが,本論の第二著者(Storch)が提案する枠組み(ペアワークでのやり取りを「対等の関係性のありなし」「互恵性のありなし」から4つのパターンに分類している)は,ペアでの学びの実際を分析する上で示唆に富む。


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キース・ソーヤー(著),金子宣子(訳)(2009)『凡才の集団は孤高の天才に勝る:「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』東京: ダイヤモンド社.


そもそも本書(原書)のタイトルにもなっている「Group」と「Genius」は,コロケーションとしてはあまり一般的ではない。天才というのは通例は「個人」を指すものだろうし,その意味で「集団」と共起するものではない。一方で,著者は「孤高の天才」などというのは神話に過ぎず,グループゆえに生まれる天才的な発想「Group Genius」というものがあると指摘する。本書は,「Group Genius」という心理的な現象を広範な調査・分析と著者自身の豊富な実体験を踏まえて,分かりやすく紐解いたものである。チクセントミハイを大学院時代の指導教員とする著者が,グループで経験するフロー状態を「グループ・フロー」と名付け,そのような状態へと導く「10の条件」をまとめた本書は,グループやチームなどを率いるリーダーや教師に多くのヒントを与えてくれる。


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Park, H., & Hiver, P. (in press). Profiling and tracing motivational change in project-based L2 learning. System, 57.


本論は,プロジェクト学習の前後において,動機づけがどのように変化したかを記述・分析したもの。動機づけについては,言語不安,自己効力感,理想L2自己の3観点に基づき学習者をプロファイリングし,プロジェクト前後でどのような変化があったかを質問紙,ジャーナル,インタビューを用いて検討している。アプローチとしては賛同できる一方,肝心のプロジェクト学習の中身が「ブラックボックス」のまま。結果として,たかだか1ページ半のディスカッション部分に「may(やmight)」が計13回も出てくる。


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キャサリン・A・クラフト(著),里中哲彦(編訳)(2017)『日本人の9割が間違える英語表現100』東京: 筑摩書房.


日本人がよく犯す英語の誤りを100個取り上げて,具体例などとともに解説したもの。扱われている表現はそれほど難易度が高いものはなく,大学の初級学習者あたりまでを想定していると思われる。どのトピックからでも読み始められるし,すべて2ページずつで完結しているので,隙間時間などを使って気軽に読むことができる。


2017年5月

Wen, Z., Biedron, A., & Skehan, P. (2017). Foreign language aptitude theory: Yesterday, today and tomorrow. Language Teaching, 50, 1-31.


言語適性研究に関するレビュー論文。副題からも明らかなように,本論では言語適性に関する研究を大きく3つに分類している。具体的には,キャロルによる先駆的な研究,その後のより広範な領域から言語適性について検討した研究,そして近年のワーキングメモリ等を含めた新しい適性理論と今後の適性研究の展開である。内容の多くはすでに他で紹介されているが,MLATなど伝統的な適性テストとHiLABなど比較的新しい適性テストを領域固有-領域一般,明示的知識(学習)-暗示的知識(学習)との対比から捉えようとする視点は新しいものであり,このような試みによって第二言語習得研究により直接的な示唆を与えられる研究が増える可能性がある。


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Hout, van den, J.J.J. (2016). Team flow: From concept to application. Unpublished Doctoral Dissertation. Eindhoven: Technische Universiteit Eindhoven.


フロー(Flow)とは心理学者チクセントミハイによって提唱された理論で,時が経つのも忘れて,何かに没頭している時に経験する心理状態(“最適経験”とも呼ばれる)のことを指す。本論は,そのような状態がチームの中でも起こり得るのか否かを,ビジネス場面を対象に実証的に調査・分析している。


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Walker, C. J. (2010). Experiencing flow: Is doing it together better than doing it alone? The Journal of Positive Psychology, 5, 3-11.


Salanova, M., Rodríguez-Sánchez, A. M., Schaufeli, W. B., & Cifre, E. (2014). Flowing together: A longitudinal study of collective efficacy and collective flow among workgroups. Journal of Psychology, 148, 435-455.


両者は,いずれもグループにおけるフロー経験について調査・分析したもの。前者ではsocial flow,後者ではcollective flowという用語を使っている。その他,応用言語学の文脈ではDörnyeiやMuirらが近年,Group DMCsという概念を提案している(Dörnyei, Henry, & Muir, 2016)。彼らによれば,フローとは一瞬,特定(その場)の活動において経験するものであり,DMC(Directed Motivational Current)とは比較的長い,その場を超えた(一連の)活動において経験するもの,さらにDMCは個人だけでなくグループで経験することもあり,その典型例としてはプロジェクト学習などが挙げられるという。いずれにしても,ポイントは個人を対象にしてきたフロー概念は集団(グループ)に対しても十分拡張可能だということ。


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Taguchi, N. (2016). Contexts and pragmatics learning: Problems and opportunities of the study abroad research. Language Teaching, 49, 1-14.


どのような理論的基盤に立つかに関わらず,第二言語習得を理解するにあたって,コンテクストは中心的な役割を果たす。加えて,インプット=インタラクション・アプローチから社会文化的アプローチ,ダイナミックシステム・アプローチへと近年の理論的関心が進展するにつれ,その傾向はますます強くなっている。本論は,語用論的能力の学習・発達において,コンテクストがどのような位置づけを担っているのかを,留学に関する3つの研究アプローチから検討している。留学先のコンテクストを「ブラックボックス」のように扱うのではなく,学習者が留学先でどのようなソーシャル・ネットワークを築き,その中で具体的にどのようなやり取りを行っているのかに目を向けることで,言語習得の実際をこれまで以上に詳細,かつ精緻に記述・分析することが可能になる。


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Hüffmeier, J., & Hertel, G. (2011). When the whole is more than the sum of its parts: Group motivation gains in the wild. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 455-459.


個人よりもグループで仕事をすることの肯定的側面について,オリンピックの水泳競技に出場した選手らを対象に調査したもの。2012年ロンドン五輪で松田丈志選手(水泳400mメドレーリレー)が「(北島)康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」と言って,結果的に(チームで)銀メダルを獲り,その後の2016年リオ五輪では松田選手の後輩らが「丈志さんを手ぶらで…」と言って,800メートルメドレーリレーで銅メダルを獲ったことはいまだ記憶に新しい。本論は,チームやグループのモチベーションというのは,パフォーマンスに大きな影響を与える可能性があることを実証的に示しており,その中でも「自分がやらなければ」というsocial indispensabilityが重要な鍵を握っていることを指摘している点は注目に値する。


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Aubé, C., Brunelle, E., & Rousseau, V. (2014). Flow experience and team performance: The role of team goal commitment and information exchange. Motivation and Emotion, 38, 120-130.


職場におけるチームのパフォーマンスとフローの関係を実証的に検討したもの。85のチームを対象として,疑似的なプロジェクト活動を伴う実験を行った結果,フロー体験とチームのパフォーマンスには正の関連が見られたことに加え,チームのメンバーによる目標達成への深い関与は両者のmediator variable,チームのメンバー内での意見交換は両者のmoderating variableとしての役割を果たすことを示している。


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奥総一郎,他(2017)『学生の学びと成長のプロセスを可視化する実践的研究: 成長軌道に乗せる“仕掛け”の多い教育を目指して』関東学院大学×ベネッセ共同研究報告書.


大学での学びを可視化し,その成果を教育の質向上へとつなげる試みとして,ベネッセi-キャリアが開発した「大学生基礎力レポートI」,「同II」などを活用した学生アセスメント,ならびにそこで得られたデータや授業での成績,レポートに基づいて抽出した学生に対するインタビュー調査の結果を踏まえ,大学における授業改善や研修プログラムの開発について報告している。FDを単なるお題目で終わらせるのではなく,より実効性のある取り組みへとつなげていくための具体的なヒントが得られる。


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吉田達弘(2017)「英語授業におけるペアワークの実践と研究」『KELESジャーナル』第2号, 6-10.


近年の英語教育ではコミュニケーション活動が重視され,タスクという言葉もすっかり定着した。また,新しい指導要領の中でも「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)の重要性が指摘されている。したがって,今後の英語教育では他者とのやり取りを伴う言語活動(つまり,ペアやグループでの活動)の重要性はますます高まることは間違いない。その一方で,ペアやグループワークを対象とした研究というのは,必ずしも十分ではない。例えば,Boo et al.(2015)はここ10年ほどの動機づけ研究の現状をレビューした論文だが,ここで対象となった416編の論文の中にも,「ペア(ワーク)」といったキーワードがタイトルに含まれる論文は一本もなく,グループダイナミックスの観点から動機づけを扱ったものがわずかに見られるだけである。そのような現状において,本論ではペアワークの研究の重要性,最近の関連する研究から得られる知見をコンパクトにまとめ,続く2編の実践報告への橋渡し的な役割を担っている。実践報告では中学,あるいは高校のライティングにおけるペアワークに焦点を当てており,実際にペアで活動に取り組む学習者がどのような会話を行っていたかを微視的に分析した興味深い内容になっている。


2017年4月

Erlam, R. (2005). Language aptitude and its relationship to instructional effectiveness in second language acquisition. Language Teaching Research, 9, 147-171.


本論は,学習者の言語適性と3種類の異なった教授法(演繹的指導,帰納的指導,インプット処理指導)の効果との関連を実証的に検討したもの。対象はニュージーランドの高校で第二言語としてフランス語を学ぶ高校生60名。45分×3回の実験授業を実施し,計3回の言語能力テスト(プレ,ポスト,遅延),実験後の適性テストの結果を分析している。得られた結果のうち,とくに注目すべき点は,学習者に言語規則を説明した上で言語産出を行う機会を与えるような指導(本論でいう演繹的指導)には,言語適性における学習者の個人差が指導の効果に与える影響を少なくする可能性を期待できるということ。本論はATIの枠組みに直接的に基づいたものではないが,研究のアプローチ自体は学習者の適性と教授法との交互作用を考える上で参考になる。


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石黒広昭 (2016). 『子どもたちは教室で何を学ぶのか: 教育実践論から学習実践論へ』 東京: 東京大学出版会.


教室における学習や指導に関する実践を考える時,一般にそれは「指導者」の立場に立ってなされることが多い。しかし,実際の学習の主役は児童・生徒・学生であり,その意味では教室実践は「学習者」の立場から捉えられる(捉え直される)べきものである。本書はそのような問題意識に基づき,学校で行われる学び(とりわけ小学生に焦点を当てている)の実態をエスノグラフィーの手法を用いながら,詳細に記述・分析している。具体的には,児童・生徒にとって「小学校に入学する」とはどのような意味を持つのか,授業中の生徒と教師のやり取りを生徒の側から分析するとどのようなことが見えてくるのか,学びの場としての教室空間はどのような役割を果たし,生徒(の学び)にどのような影響を与えているのかなど,いずれも興味深いテーマを取り上げている。教室での学習実践を批判的に検討・考察している各章は,これまでとは違った視点から教室での学びを捉え直すことを可能にしてくれる。真の意味での「教育実践研究」とは何かを考える上でも非常に示唆に富む一冊。


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Brown, J. (2017). Forty years of doing second language testing, curriculum, and research: So what? Language Teaching, 50, 276-289.


テスティングやカリキュラム開発,研究法などの分野で多くの実績を残してきたJames D. Brownがこれまでの40年の仕事を振り返り,今後,この分野が向き合わなければいけないであろう課題やその解決に向けたアイディアなどを簡潔にまとめたもの。どんなテスト,どんなカリキュラムにも唯一絶対,「One Size Fits All」なものはない。したがって,ニーズ分析がとても大切になる。そうすると,例えば,分野によって用いられる英語(単語や表現)も違うということがよく分かる。


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Lamb, M. (in press). When motivation research motivates: Issues in long-term empirical investigations. Innovation in Language Learning and Teaching, 11.


近年の第二言語習得研究,とりわけ動機づけに関する研究では,ワンショットによるデータ収集ではなく,複数回にわたる縦断的なデータ収集により,学習者の動機づけの変化・発達を詳細に記述することが増えてきている。本論では,研究者が長期にわたって調査を行うことにより,調査協力者にどのような肯定的・否定的影響を与え得るのかについてインタビューの内容分析を通じて検討している。結果として,協力者の動機づけを高めるといった影響だけでなく,権威を持つもの(したがって,期待に応えなければならないもの),あるいは長期にわたって重荷になるものとして認識されていたことなどが明らかにされている。これまで秒,時間,週,年といったタイムスパンで動機づけの変化を検討した研究はいくつも報告されているが,本論のように10年以上にわたって協力者を追跡し,彼らの動機づけを検討している研究は極めて少ない。研究テーマの設定と同様,非常にユニークな論文だと言える。


2014年度~2016年度

2016年4月~2017年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。


2015年4月~2016年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。


2014年4月~2015年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。