研究ジャーナル

研究テーマに関する書籍,論文の読書ノートです。

2015年3月

Lai, C., Zhu, W., & Gong, G. (2015). Understanding the quality of out-of-class English learning. Language Learning, 49.


近年の外国語学習・教育では学習目的の多様化や学習期間の長期化を受けて,自律学習の重要性がますます高まっている。本論は授業外学習(out-of-class learning)に焦点をあて,どのような学習が高い学習成果に結びついているかを明らかにしようとしたもの。対象となったのは中国で外国語として英語を学ぶ中学生だが,彼らの多くは学校で「形式重視」の授業を受けていた。そのような学習者の中で高い成果を上げていたのは,授業外学習として「意味重視」の活動やテクノロジーを活用した活動を積極的に行っていたものであった。また,ただ単に学習の「量」を確保するだけでは十分ではなく,学習内容を多様化させるなど自らの学習に主体的・能動的に関わる(メタ認知的視点を持つ)ことが重要なことも指摘されている。


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Mozgalina, A. (2015). More or less choice? The influence of choice on task motivation and task engagement. System, 49, 120-132.


本論は,タスクに選択肢を与える(=自律性の欲求を満たす)ことが学習者の内発的動機づけやタスクに対する取り組みにどのような影響を与えるかを検討したもの。課題の内容,課題の進め方それぞれで異なった操作化を行った実験の結果,選択肢を与えることがそのまま動機づけや課題への取り組みを促すわけではなく,課題の内容と進め方の組み合わせによって,のちの動機づけや課題への取り組みに異なった影響を与えていたことが報告されている。


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Patall, E. A. (2012). The motivational complexity of choosing: A review of theory and research. In R. M. Ryan (Ed.), The Oxford handbook of human motivation (pp. 248-279). Oxford: Oxford University Press.


自己決定理論をはじめとする多くの動機づけ心理学における研究では,選択(肢)を与えることがのちの自律的な行動や動機づけにプラスの影響を及ぼすことが繰り返し報告されてきた。そのような状況に対して,本論では選択(肢)と自律的動機づけの関係はそれほど単純なものではないこと,選択肢にも適度な数があり,2~4つの選択肢を与えられることはそれ以上あるいは選択肢が何もないよりも動機づけを高める傾向があることを指摘している。


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寺沢拓敬 (2015). 『「日本人と英語」の社会学-なぜ英語教育論は誤解だらけなのか』 東京: 研究社.


本書は,世間一般に見られる英語(教育)に関する通説・俗説の真偽を,各種社会統計データの二次分析を通じて明らかにしようとしたもの。これまで直感的に感じてきたことが実際のデータ分析を通じて検証・確認されている一方,「日本人は英語ができない」といった言説が浸透したのは,他国と比較して,日本は階層が高く「目立ちやすい」人たちの英語力が低い(中間層は他国と比べて平均レベル)ため,日本の劣位が際立ってしまった可能性があること,あるいは「グローバル化=英語化」は必ずしも事実ではなく,2000年代以降の仕事での英語使用には増加した形跡は見られない(むしろ減っている)状況があり,世界的不況によって貿易減,訪日外国人減が起こり,その結果,英語使用が減少している可能性があることなど,新たな洞察や知見を得られる記述も多く見られる。英語(教育)に関する基礎資料的な利用も可能な書籍だと思われる。


2015年2月

ピーターセン, マーク (2014). 『日本人の英語はなぜ間違うのか?』 東京: 集英社インターナショナル.


本書は,日本人が英作文でよく犯す間違いと中学校の英語教科書に共通して見られる典型的な特徴・問題点を取り上げ,その修正方法についてまとめたもの。具体的には,伝えたい意味が通じる,より自然な英文が書けるようになるためには,過去完了形,仮定法,関係詞節非制限用法が挙げられるが,これらはいずれも中学校の教科書では扱わないことになっていること(したがって,不自然な英文が用いられるケースが多いこと),このような事態を解消するため,過去完了形は過去形,仮定法は未来形,非制限用法は制限用法とそれぞれ一緒に紹介すべきことを提案している。


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Chan, H. (2014). Possible selves, vision, and dynamic systems theory in second language learning and teaching (Chapter 4 Dynamic Systems Theory (pp. 69-93)). Unpublished PhD thesis, University of Nottingham.


とある論文を査読する上で必要になったので,あらためて再読。ダイナミックシステム理論の概要(起源,特徴的な用語,メタファー)について整理した後,本理論に基づいた研究を行う上での困難点や方法論上の留意点などをまとめている。L2動機づけに関したもので言えば,Dörnyei & Ottó(1998)のプロセスモデルやUshioda(2009)のPerson-in-context relational viewなどが取り上げられ,そのような考え方に基づいて行われた研究例がいくつか紹介されている。この理論の基づく研究は,数量化して,統計的に処理することが難しい現象や要因を取り上げた研究に新しい視点を提供することは間違いないが,こういった理論的基盤に基づいた研究を実際に行うには,「メタファー」といった概念がとても重要になってくる。


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縄田健悟・山口裕幸・波多野徹・青島未佳 (2015). 「企業組織において高業績を導くチーム・プロセスの解明」『心理学研究』 第86巻.


本論は,どういった特徴を持ったチーム(主として企業組織を対象)が高いパフォーマンス(高業績)を上げるのか,そのプロセスを検討したもの。5企業の従業員(個人 N = 1400,チーム N = 161)に対して質問紙調査を実施し,集団レベルと個人レベルの両効果を弁別しながら分析(マルチレベル分析を使用)した結果,チーム・プロセスは「目標への協働」と「コミュニケーション」といった2つの側面から構成されること,チームにおけるパフォーマンスは「コミュニケーション→目標への協働→パフォーマンス」といったプロセスを経て高まることが明らかとなった。高い成果を上げる上で,明確な目標設定とそれに向かった継続的な努力(協働)が必要なことは当たり前だが,コミュニケーション(例:「分からないことがあれば,同僚に気軽に尋ねる」「インフォーマルなコミュニケーションや挨拶・声かけなどを頻繁に行う」「各自の時間や労力を割いて,困難を抱えるメンバーの手助けをする」など)が目標への協働を促進する重要な基盤になっているというのは,実感として(ゼミの学生を見ていて)とてもよく分かる。


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MacIntyre, P., Burns, C., & Jessome, A. (2011). Ambivalence about communicating in a second language : A qualitative study of French immersion students’ willingness to communicate. Modern Language Journal, 95, 81-96.


第二言語習得において,インタラクションの重要性に異議を唱える者はいないであろう。だとすれば,何が学習者の自発的なコミュニケーション活動を促すのかを明らかにすることは大きな意義があると言える。本論では,フランス語のイマ-ジョンプログラムで学ぶ100名の中学生を対象に,彼らの学習ジャーナルを分析することを通じて,何が自発的にコミュニケーションする意思(WTC),あるいはそうしない意思(UnWTC)に影響を与えているのかを検討している。分析の結果から,多くの状況が学習者のWTCを促すとともにUnWTCを促す要因にもなっていたこと,WTCは学習者の内的な個人差要因ではなく,対話者との関係によって対話的に形成されるものであることなどを指摘している。


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Derrick, D (2015). Instrument reporting practices in second language research. TESOL Quarterly, 49.


質問紙など調査に用いられる測定具に関する情報が,研究論文においてどのように報告されているかを分析したもの。3つの主要な学術誌(MLJ,LL,SSLA)に過去5年間に掲載された計385本の論文を対象に,origin,development,piloting,reliabilityなどの観点から分析を行い,課題や改善点(例えば,質問紙の信頼性に関する情報が不十分な論文が多いこと,質問紙の開発に当たってはIRISなどのデータベースを有効に活用すること)についてまとめている。


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東京大学教養学部・情報堂ブランドデザイン (2014). 『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』 東京: KADOKAWA.


本書は,「個性とは何か」といった問いに対して,さまざまな学問分野からアプローチしたもの。具体的には,認知神経科学,物理学,統計学,言語学など9つの研究分野において,個性がどのように位置づけられているのか,あるいは個性はどのような役割を果たしているのかについて,各分野の専門家(すべて東大の教員)にインタビュー調査を行っている。「まわりとの関係性を抜きにして個性は語れない」という指摘は,個人的に最も印象深かった。ともすれば,自由に好き勝手というのが個性的とも考えられなくもないが,本当の意味での個性的というのは,ある程度の「共通性」を踏まえた上で,社会にとって価値のある(その人ならではの)「固有性」を発揮できるかどうか,ということ。このように考えると,共通性と固有性のバランスがいかに取れているかといったことが重要になってくる。個性に関しても,「バランス」が大切だということ。


2015年1月

Chan, L., Dörnyei, Z., & Henry, A. (2015). Learner archetypes and signature dynamics in the language classroom: A retrodictive qualitative modelling approach to studying L2 motivation. In In Z. Dörnyei, P. D. MacIntyre & A. Henry (Eds.), Motivational dynamics in language learning (pp. 238-259). Bristol: Multilingual Matters.


近年,SLA研究において注目されている理論の1つに「ダイナミックシステム理論」がある。Dörnyei(2014)ではその理論に基づいた質的研究のテンプレートとして“retrodictive qualitative modelling(RQM)”を提案しているが,本論はそのアプローチを用いてL2動機づけを実証的に検討している。RQMとは一言で言えば,従来の多くの研究のように,複数の事象(あるいは要因)の間にどのような因果関係が存在するのか「予測する」(predict)するのではなく,例えばある変化が起こった際にその変化を「回顧的に説明・解釈する」(retrodict)しようとするもの。3つのフレーズに基づいた分析からは,学習者の動機づけが特定の学習コンテクストと相互に影響し合いながら,どのように形成され,発達・変化してきたのかが詳細に描かれている。


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Nguyen, L., & Gu, Y. (2013). Strategy-based instruction: A learner-focused approach to developing learner autonomy. Language Teaching Research, 17, 9-30


本論は,学習方略指導(ChamotらによるCALLAの枠組みに基づく)が学習者の自律性(ここではself-initiationとself-regulation),ならびに英語力(ここではライティング力)の向上に与える影響を検討したもの。研究デザインはシンプルだが,心理要因の概念化,介入内容の説明,分析・結果の考察など,論文の構成はとてもしっかりしている。大学院生が修論を書く際などには参考になる点が多々あると思う。


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Schmitt, N. (2014). Size and depth of vocabulary knowledge: What the research shows. Language Learning, 64, 913-951.


語彙(vocabulary)はどれだけ多くの語を知っているかといった「サイズ」の側面と,それらの語をどの程度よく知っているかといった「深さ」の側面から議論されることが多いが,両者(サイズと深さ)の関連についてはいまだ不明確な点が多い。例えば,両者はほぼ同じものだと主張する研究者もいれば,回帰分析を行えば両者はそれぞれ独自の寄与を示す(=両者は異なるものだ)と主張する研究者もいる。本論は当該テーマに関する研究を幅広くレビューし,両者の関連を理論・実証的に検討している。研究の結果,先述した疑問点に対する答えは,語彙の「サイズ」と「深さ」をどのように概念化し,測定するかによって異なるものの,高頻度語(あるいは語彙サイズが少ない学習者)においては,両者の間にはそれほど大きな差は見られないが,低頻度語(あるいは語彙サイズが大きい学習者)においては,両者にはギャップが見られる(「深さ」は「サイズ」に遅れをとる)ことが多いことを明らかにしている。


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Motulsky, H. (2014). Common misconceptions about data analysis and statistics. The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 351, 200-205.


研究結果の再現性が低い原因・理由の1つは統計に関する知識不足であるとの問題意識に立ち,データの収集・分析について誤りがちな5つのポイントを簡潔にまとめている。例えば,同じデータを使って「仮説検証」と「仮説生成」を行ってはいけない。著者はこのことを「double dipping」と呼んでいるが,大阪的(?)に言うと,いわゆる「二度漬け厳禁」。


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Mercer, S. (2014). Dynamics of the self: A multilevel nested systems approach. In In Z. Dörnyei, P. D. MacIntyre & A. Henry (Eds.), Motivational dynamics in language learning (pp. 139-163). Bristol: Multilingual Matters.


近年,SLAにおける自己(self)や自己に関連した概念は,さまざまな側面から研究が行われている。本論は,これまでの自己に関する議論を「multilevel nested systems」といった見方を用いることで,1つの統合的な視座から検討しようとするもの。具体的には,秒ごとの自己(Level1)をidiodynamic tool,分ごとの自己(Level2)を質問紙,週ごとの自己(Level3)をジャーナル,月ごとの自己(Level4)をインタビューによって調査し,多様なレベルで相互作用しながらダイナミックに規定される自己像を記述的に分析・考察している。


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MacIntyre P. D. (2012). The idiodynamic method: A closer look at the dynamics of communication traits. Communication Research Reports, 29, 361-367.


本論は特定のコミュニケーション場面における学習者の動機づけ,WTC,不安といった情意的・認知的要因をリアルタイムで捉えることを目的とした“Idiodynamic Method”の概要とそれを用いた研究例を紹介したもの。この方法では,学習者のコミュニケーション・パフォーマンスをビデオで録画し,パフォーマンス直後にその録画を見ながら,パフォーマンス時の動機づけやWTCについて秒単位で振り返りながら自己評価してもらう。それと並行して,インタビューを通じて動機づけやWTCの変化について説明してもらったり,第三者による評価も組み合わせるといったmixed methodに似たアプローチを採用する。このように多様な観点から1つのシステムを複眼的に捉えることによって,リアルタイムで刻々と変化する学習者の情意的・認知的要因とまわりの環境がダイナミックに相互作用する様相をより詳細に検討しようと試みる。


2014年12月

Dörnyei. Z., MacIntyre, P., & Henry, A. (Eds.) (2015). Motivational dynamics in language learning. Bristol: Multilingual Matters.


「ダイナミックシステム理論×第二言語習得×実証研究」という組み合わせで編まれた論文集。対象としているトピックは,動機づけ。近年の動機づけ研究はよりミクロな視点,よりプロセス志向の視点を取り入れるようになってきているが,その流れが進むほど,ダイナミックシステム理論(DST)との相性が良くなるように感じる。全体の構成としては,11編の理論研究(DSTにおいて重要な役割を果たす諸概念の解説)と12編の実証研究(DSTの原理・原則を適用し,動機づけのダイナミクスを調査した論文)から成り立っている。編著者の1人でもあるMacIntyreらが行った調査では,秒単位で変化する学習者の動機づけを記述・検討しているが,ある対象者の動機づけには大きな変化が見られた一方,ほぼ変化が見られなかった対象者も確認された(彼らはその結果を“In this dynamic system, even the degree of variability shows variability!”(p.119)と述べている)。所収されている論文からは,ダイナミックに変化する動機づけの詳細を捉えようとすれば,従来型の平均を中心とした分析方法だけでは必ずしも十分ではないことがよくわかる。


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門田修平 (2014). 『英語上達12のポイント』 東京: コスモピア.


外国語(英語)学習を進める中で多くの人が抱くであろう不安や疑問に対して,第二言語習得研究の観点から答えようとしたもの。例えば,「効率よく記憶に定着させるコツをつかむ」では,私たちが情報を処理する記憶システムの概要を確認した上で,短期的,意識的なワーキングメモリから長期記憶へ,いかにすれば効率よく情報を転送できるかについてまとめている。ワーキングメモリを構成する重要なシステムの1つである音韻ループは,第二言語の習得に直接的に関わっている。音韻ループ内での情報保持には「2秒」という時間的制約があるため,この制約内にできるだけスピードを上げて復唱できるようにトレーニングすることが,長期記憶への情報転送を促進する重要な要因になる。


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鈴木孝夫 (2014). 『日本の感性が世界を変える-言語生態学的文明論』 東京: 新潮社.


著者曰く,この本は「すべての人は,これからは単なる地球人ではなく"地救人"になるべきだという私の年来の考えを,言語生態学的な文明論のかたちで改めて世に問う」もの。日本は等質性を前提とした「論より証拠」の事実社会であるのに対して,西洋や中国を含むユーラシア大陸では,あまりに地域差(つまり多様性)が大きいため,「証拠より論」の理屈社会になっているなど,著者独自の視点が説得力を伴った形で展開されている。


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鈴木雅之 (2014). 「受験競争観と学習動機,受験不安,学習態度の関連」『教育心理学研究』 第62巻, 226-239.


高校生が有する受験競争観には2つの側面(成長型競争観,消耗型競争観)があること,成長型競争観を持つ学習者ほど学習の価値を内在化し,複数の動機に支えられた学習を行う一方で,消耗型競争観を持つ学習者は外的な学習動機(受験のため)や受験不安が高い傾向にあることが示された。このことから,大学入試における競争が学習者に与える影響は,受験競争観によって異なることが指摘している。


2014年11月

Plonsky, L., & Oswald, F. L. (2014). How big is “big”? Interpreting effect sizes in L2 research. Language Learning, 64.


従来,効果量についてはCohen’s d(small [d = .0, r = .1], medium [.5, .3], large [.8, .5])を基準とすることが主流であったが,本論ではL2の研究領域における独自の基準を提案するだけでなく,効果量を正しく解釈・利用するために気を付けなければならない8つのポイントについても分かりやすくまとめている。


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Loewen, S., et al. (2014). Statistical literacy among applied linguists and second language acquisition researchers. TESOL Quarterly, 48, 360-388.


応用言語学や第二言語習得研究に従事する研究者が,統計についてどの程度のリテラシーを有しているかを調査したもの。基本的にはLazaraton, et al.(1987)の追調査となっており,可能な限り当該研究との比較も行われている。統計に関するトレーニングが十分だと考えているのは,対象となった博士課程院生のわずか14%,教員の30%であったことなどが報告されており,統計自体は重要だと認識しているものの,その利用については必ずしも十分な自信を有しているわけではないことが指摘されている。


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Liu, Y-T., & Todd, A. G. (2014). Dual-modality input in repeated reading for foreign language learners with different learning styles. Foreign Language Annals, 47.


Repeated readingにおいて,複数のモダリティ(視覚+聴覚)による指導,単数のモダリティ(視覚のみ)による指導のいずれが読解ならびに語彙習得に効果があるのか,さらにそのような効果は学習者の学習スタイル(視覚型,聴覚型,バランス型)によって異なるのかについて検討している。


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Muñoz, C. (2014a). Contrasting effects of starting age and input on the oral performance of foreign language learners. Applied Linguistics, 35, 463-482.


本論は学習者の第二言語(外国語)の学習開始年齢と受けたインプットのタイプ・質が学習者の口頭でのパフォーマンスにどのような影響を与えているかを検討したもの。結果として,学習開始年齢よりも,インプットのタイプ・質やネイティブスピーカーとの接触機会の方がのちのパフォーマンスとより強い関連を持っていたことが示された。一般に学習開始年齢は「早ければ早いほど良い」と考えられがちだが,それは豊富なインプットが得られるESL環境には当てはまるように見られる一方,EFL環境では必ずしもそうとは言えない。なぜなら,年少児はあまり学習しているという感覚を持つことなく,母語習得と似たように第二言語を習得する(implicit learningが得意な)傾向にあるが,そのような学習を可能にするのはあくまでも大量のインプットがあるからであり,EFL環境では必ずしもそのような大量のインプットは望めない。逆に長期間にわたって「間延び」させながら指導するより,短期間で集中的に指導する方が効果的ということもあり得る。したがって,日本のような状況で学習開始年齢などの議論をする際には,インプットの質やネイティブスピーカーとのインタラクションの機会など,EFL環境における特有の要件を視野に入れて検討する必要が強くあることを本論の結果は示唆している。


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Muñoz, C. (2014b). Starting young – is that it all takes? Babylonia, 01/14, 22-25.


上記で紹介した研究に関連する話題をよりコンパクトにまとめたもの。自然習得で確認されている「早ければ早いほど良い」といった現象は,教室での言語習得においては必ずしも見られない。インプットが限られた教室環境では,児童が有するimplicit learningに対する優位性を発揮することはできない。どこまでも学習開始年齢を下げていくといった議論より,教室内外でのインプットの「量」を増やす,学習者の発達段階・適性に合ったインプットの「質」を考慮するなど,「インプットを最大化・最適化する」ということを志向する方が言語習得をより効率的に促進できると考えられる。


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向山陽子 (2013). 『第二言語習得における言語適性の役割』 東京: ココ出版.


本論はこれまでの第二言語習得における言語適性研究を包括的に整理し,得られた課題を実証的に検討したもの。具体的には,コミュニケーションを重視した帰納的指導条件において,Skehanが提案する適性の3要素(音韻処理能力,言語分析能力,記憶力)に焦点を当て,適性と学習成果との関連を縦断的に検証している。結果として,例えば,音韻処理能力は学習初期に重要,言語分析能力は学習初期段階から一貫して重要,記憶力(ワーキングメモリ)は学習が進んだ段階で特に重要というように適性と学習段階との相互作用について明らかにしているだけでなく,適性と言語スキルとの相互作用や学習者の適性プロフィールの違いが学習成果に与える影響についても実証的に検討を加えている。近年,第二言語習得における適性研究については少しずつ研究が増え始めているが,本論は日本語で書かれた数少ない書籍(著者の博士論文をまとめたもの)の1つであり,「適性研究のいま」を知る上では大いに参考になる1冊だと思われる。


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Aubrey, S. (2014). Development of the L2 Motivational Self System: English at a university in Japan. JALT Journal, 36, 153-174.


本論は,コミュニケーション重視の英語授業を受けた大学生の動機づけの強さと構造,ならびにその変化をL2 Motivational Self Systemの枠組みから検討したもの。研究の独自性,新規性があまり高くないことに加え,授業の詳細が詳しく記述されていないため,授業活動のどういった側面が動機づけの変化・発達にどのような影響を与えたかはまったく定かではない。加えて,指導の前後(授業1週目と授業12週目)でIdeal L2 SelfからL2 Learning Experienceへのパスに大きな変化が見られたことが指摘されているが,そもそも指導前後における2つのパス図で矢印が逆になっている部分があったりして,解釈の妥当性はよく分からない(その他,文中に誤植があったりする)。


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Gass, S., Behney, J., & Plonsky, L. (2013). Second language acquisition: An introductory course (4th edi.; Chapter 16: An integrated view of second language acquisition, pp. 497-512). New York, NY: Routledge.


これまで第二言語習得のモデルはいくつか提案されているが(Ellis, 1990, 1994; Gass, 1997; Sharwood Smith, 1986; VanPatten, 1996),なかでも代表的なモデルと考えられるのがGass(1997)によるモデル。本論はGass(1997)に基づき,そのモデルをより詳細に解説したもの。具体的には,第二言語習得に係る認知プロセスを,情報を短期記憶に保持する「気づき」(noticing),保持した情報を意味/形式/機能など多様なレベルで処理する「理解」(comprehension),理解した情報を中間言語へ取り込む「内在化」(intake),取り込んだ知識を長期記憶として貯蔵し,処理の自動化を図る「統合」(integration)といった 4つのプロセスから成るものとして捉えている。第二言語習得をこのようなプロセスから捉えることにより,どこに,どのように働きかければ言語習得をより効率的に促進できるかについて,実際的な示唆を得ることができる。


2014年10月

Ushioda, E. (2014). Motivation, autonomy and metacognition: Exploring their interactions. In D. Lasagabaster, A. Doiz and J.M. Sierra (Eds.), Motivation and foreign language learning: From theory to practice (pp. 31-49). Amsterdam: John Benjamins.


第二言語習得における動機づけ,自律,メタ認知の接点を探ったもの。これまで動機づけと自律の関係については多くの研究において扱われてきたが,メタ認知の位置づけについては必ずしも明確ではなかった。本論では,動機づけの研究がよりミクロな視点,プロセス志向の視点を取り入れるほど,特定の状況において学習をどのようにプランニングし,その経過をモニタリングし,成果を振り返るかといったメタ認知のプロセスが重要な役割を果たしてくることを,とりわけ社会文化理論の枠組みから議論している。


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Muñoz, C., & Singleton, D. (2011). A critical review of age-related research on L2 ultimate attainment. Language Teaching, 44, 1-35.


年齢と第二言語習得の成否が関連しているだろうということは恐らく間違いない。ただし,同じぐらい明らかなこととして,ある一定の年齢(一般に言われる,臨界期)を過ぎたからと言って,ネイティブスピーカーのようになることが一切不可能になるだろうということもない。本論はこのことに関するこれまでの先行研究を包括的にレビューしながら,そもそもネイティブスピーカーを最終的な到達目標とすることの妥当性,年齢と同様に重要な役割を果たしていると考えられる要因(例: インプットの量と質,動機や態度,学習環境)を考慮することの重要性,今後取り組むべき新しい研究の可能性などについてまとめている。ポイントとしては,第二言語習得の最終的な到達度と臨界期仮説に関する諸問題をもう少し「ゆるやか」な関連から捉える(捉え直す)ことの必要性が挙げられる。


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並木博,他 (2013). 「学習環境と個性」 安藤寿康・鹿毛雅治 (編). 『教育心理学: 教育の科学的解明をめざして (pp. 297-328)』 東京: 慶応義塾出版会.


教授学習過程と学習者の個人差を「適性処遇交互作用(ATI)」の観点から解説し,そのようなパラダイムに基づいて行われた研究を紹介している。ATIについて,近年の研究成果まで含めて,これほど幅広くまとめた論文はあまり見られないように思う。一方,学習スタイルの研究なども同様だが,学習者の個人差特性を考慮することによって「学習効果の最適化」を目指すのが良いのか,学習者に様々なスタイルを身につけさせ,より柔軟な「学習適応力」を身につけさせることを目指すのが良いのか,それほど簡単な問いではないように思われる。


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Kinsella, C., & Singleton, D. (2014). Much more than age. Applied Linguistics, 35, 441-462.


臨界期/敏感期を過ぎた学習者であっても,ネイティブのような第二言語能力を身につけることは可能であること,またその際には年齢以上に,第二言語環境における長期間のイマ-ジョン,第二言語話者や第二言語社会との密接な関係といった情意的要因が重要な役割を果たす可能性が大きいことを指摘している。


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Pawlak, M. (2012). The dynamic nature of motivation in language learning: A classroom perspective. Studies in Second Language Learning and Teaching, 2, 249-278.


外国語学習者の動機づけの時間的変化を含めたダイナミックな特性を多様な観点から捉えようとしたもの。実際の教室場面で英語を学ぶポーランドの高校生を対象に,動機づけの質問紙,インタビュー,動機づけグリッド(授業中における動機づけの変化を5分ごとに7段階で測定するもの),学習者・教師による授業評価,授業のレッスンプランなどを用いて,学習者の動機づけの変化とその背景要因を検討している。方法論的なトライアンギュレーションにより,マクロとミクロの両面から動機づけを統合的に捉えようとする研究は,今後,ますます増えていく(主流になっていく)ものと考える。


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Loewen, S. (2015). Introduction to instructed second language acquisition. New York, NY: Routledge.


第二言語習得研究が本格化して以来,「教室第二言語習得」(classroom SLA,あるいはinstructed SLAと呼ばれる;以下,ISLA)に関する研究には大きな学問的関心と社会的期待が寄せられてきた。本書はこれまでに行われてきたISLAに関する研究を包括的に整理し,当該領域の「最前線」を体系的にまとめた最初の文献だと思われる。序論では,ISLAが扱う研究内容や定義づけ,類似する概念との相違点が分かりやすく述べられ,続く各章では文法・語彙・発音などの習得,フォーカス・オン・フォーム,学習者の個人差など,ISLAを考える上で重要となるトピックについて,理論/研究/指導の各側面から具体例を豊富に交えながら議論されている。


2014年9月

Waninge, F., Dörnyei, Z., & de Bot, K. (2014). Motivational dynamics in language learning: Change, stability and context. Modern Language Journal, 98, 704-723.


豊富なデータソースを用い,学習者の動機づけの可変性,安定性,そして学習状況との相互作用をDSTの観点から分かりやすく記述・解釈している。今後,類似した研究を行う上で,かなり参照されるだろうと思われる論文。


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Papi, M., & Teimouri, Y. (2014). Language learner motivational types: A cluster analysis study. Language Learning, 64, 493-525.


本論はイランの外国語学習者(計1,278人)を対象とし,彼らのL2動機づけをL2 motivational self systemの観点から検討したもの(内容的には,Taguchi et al.(2009)のfollow-up studyとして位置付けられる)。クラスター分析を通じて,5つの異なった動機づけ特性を有する学習者グループを特定し,各グループの特徴を動機,感情,言語的側面から記述・分析している。motivated behaviorの程度が最も高かったのは,ideal L2 selfとought-to selfをバランスよく発達させていた学習者だったという結果は,多様な動機をバランスよく持つことの重要性を改めて示すものだと言える。


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Taguchi, N. (2014). English-medium education in the global society. International Review of Applied Linguistics, 52, 89-98.


世界各地でグローバル化が進む中,international language,あるいはworld languageとしての英語を使って英語を学ぶ/教える機会が増えてきている。本特集号では,5つの国・地域で行われている「英語による英語授業」の実際を多面的な観点から検討している。それぞれの論文からは,英語を習得するということがもはや自身の言語や文化を捨て英語に同化(integrate)するということではなく,国際社会において自らのアイデンティティをarticulateできる能力を意味するようになってきている状況がよく分かる。


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Murphey, T., Falout, J., Fukuda, T., & Fukada, Y. (2014). Socio-dynamic motivating through idealizing classmates. System, 45, 242-253.


本論は“ideal L2 self”をより具体的,かつ身近なものにするための1つの試みとして,“ideal L2 classmates”という概念を提案したもの(これは個人的に以前から気になっていた考え方)。“ideal L2 classmates”が取っていると思われる行動について自由記述で説明してもらい,その回答をアンケート形式(計16項目)にして,(1)重要だと思うか,(2)友達はやっているか,(3)自分はやっているか,といった観点からそれぞれ回答してもらっている。「なりたい自分」をイメージするというのは実際にはそれほど簡単ではないが,身近な友達の理想とするところ(見習いたいところ)を考え,それをのちの学習に役立てようとするアプローチは今後,ますます注目されていくのではないかと思う。


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茂木健一郎 (2014). 『この法則でゾーンに入れる!-集中「脳」のつくり方』 東京: 朝日出版社.


フロー理論(脳がとてもリラックスしている状態にもかかわらず,最高のパフォーマンスを発揮できている状態)を参考にしながら,自分の中にある集中力を最大限に高めるコツを紹介したもの。フローを体験する上で大事なポイントは,大きく2つ。1つは,課題のレベルと自分のスキルのレベルを(できるだけ)高いところで一致させること。もう1つは,自分が何の活動でフローに入りやすいかを自覚すること。とりわけ後者は,自分の癖や長所・短所が見えてくる,そうするとどうしたらフローに入れるのか,スキルアップの方法も分かってくるという点で大切。


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Gregersen, T., & MacIntyre, P. D. (2014). Capitalizing on language learners’ individuality: From premise to practice. Bristol, UK: Multilingual Matters.


本書は主要な学習者要因(不安,信念,適性,動機づけ,等々)について簡潔にレビューした後,それらの要因をうまく利用し,外国語学習の最適化を目指したアクティビティーを数多く紹介している。基本的に,学習者要因の話というのは,それぞれの要因から見た時に自分の特徴はどうなのか,その特徴を考慮した学習の進め方はどうあるべきかという話が多いが,本書はとりわけ後者の特徴という部分について,自身の強みをさらに伸ばすにはどうしたら良いか,あるいは自身の弱みをなるべく克服するにはどうしたら良いかといった観点からアクティビティーが考えられている。それ自体はとても参考になるが,欲を言えば,個々の学習者要因それぞれに関する議論だけではなく,より統合的な見方から本書のコンセプトを具体化したアクティビティーが紹介されていると,さらに良かったのではないかと感じた。


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小野田亮介・篠ケ谷圭太 (2014). 「リアクションペーパーの記述の質を高める働きかけ:学生の記述に対する授業者応答の効果とその個人差の検討」『教育心理学研究』第62号,115-128.


昨今,大学では講義型の一方向的な授業から,学生が主体的に参加する双方向型の授業への転換が求められている。一方で,概論や入門科目といった授業は受講者数が多くなりがちで,授業者と学生間のやり取り(相互作用)が実質的には困難な場合も多い。そのような状況において,本研究はリアクションペーパーに着目し,実際に大学で授業実践介入を行い,リアクションペーパーの果たす意義,またそれを記述させる際の効果的な働きかけについて明らかにしている。全体として,論文の構成や展開が非常に明快で堅実なだけでなく,例えばリアクションペーパーの記述の分類方法([データ]・[推論]・[主張]に基づくカテゴリー化)など,参考になる点が多々ある優れた論文だと感じた。


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Long, M. H. (2012). Current trends in SLA research and directions for future development. Chinese Journal of Applied Linguistics, 35, 135-152.


第二言語習得研究が射程とする(少なくとも)6つの研究領域の概要を示した後,研究分野全体が抱える課題と今後の展望についてまとめている。著者自身が以前から指摘する主要な主張の1つは,研究分野が対象とする課題や研究結果を記述・説明する理論を整理・統合する必要があること,そのことによって認知科学を構成する一分野として更なる成熟化が可能になることを述べている。


2014年8月

Kormos, J. (2013). New conceptualizations of language aptitude in second language attainment. In G. Granena, & M. H. Long (Eds.), Sensitive periods, language aptitude, and ultimate L2 attainment (pp. 131-152). Amsterdam: John Benjamins.


本論は第二言語習得に影響を与える言語適性に関する研究を,比較的最近のものまで含めて包括的にレビューしたもの。作動記憶,音韻に関する短期記憶,言語適性の関連や,それらの認知的能力がインプットに対する気づき,処理,統合のプロセスにどのように影響するかについて詳細に記述している。また,言語適性の定義や構成要素について批判的な検討を加え,適性の(不)安定性や認知的側面以外の適性など,今後の言語適性研究が取り組むべき課題についてもまとめている。


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Sawyer, M. (2007). Motivation to learning foreign language: Where does it come from, where does it go? 『言語と文化(関西学院大学紀要)』第10号, 33-42頁.


中高大における英語学習動機づけの発達的変化を回顧法により調査したもの。著者によって行われた量的/質的研究の一部について報告されている。先行研究に基づき設定された仮説と予想はすべて支持された。動機づけがまわりの他者に大きく影響を受けることは繰り返し指摘されているが,本研究は中学時には教師,高校・大学時には友達やグループ・ダイナミクスがより重要な役割を果たし得ることを示唆している。


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Yeldham, M., & Gruba, P. (in press). The development of individual learners in an L2 listening strategies course.Language Teaching Research, 18.


4人の台湾人EFL学習者に対するリスニング方略の指導効果を検証したもの。個々の学習者がどのように方略の使用を変化・発達させていくのかをケーススタディの手法を用いて縦断的に調査している。結果として,対象となったすべての学習者がトップダウン・ボトムアップ両方の方略をバランスよく発達させていただけでなく,リスニングに対する自信や動機づけを高めていたことが報告されている。


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岡田昭人 (2014). 『世界を変える思考力を養うオックスフォードの教え方』 東京:朝日新聞出版.


オックスフォード大学在籍時に著者自身が経験した「教育方法」(指導法)のノウハウを,さまざまなエピソードを通じて紹介したもの。日本人に欠けていると指摘する6つの能力(統率力,創造力,戦闘力,分解力,冒険力,表顕力)を効率よく身に付ける方法として42のポイントを挙げている。個人的にも大切だと感じているのは,「未来を語る」ということ。(私自身を含めて)「今を生きる」だけで精一杯になりがちだが,そういった状況の中でも(目を輝かせて)未来のことを語れる人はやっぱり魅力的。そういう人は「Ideal future」が具体的にイメージできているんだと思う。


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Izumi, S. (2013). Noticing and L2 development: Theoretical, empirical, and pedagogical issues. In J. M. Bergsleithner, S. N. Frota, & J. K. Yoshioka (Eds.), Noticing and second language acquisition: Studies in honor of Richard Schmidt (pp. 25-38). Honolulu: University of Hawai’i, National Foreign Language Resource Center.


第二言語習得における「気づき」(noticing)の重要性を確認した上で,実際の言語習得のプロセスと「気づき」がどのように関連しているのかを理論的に考察したもの。「気づき」といった時,気づく対象が何かによって,そのタイプはいくつかに分類できる。具体的には,(1)言語形式(あるいは,形式-意味-機能のつながり)に気づくこと,(2)自分の中間言語と目標言語とのギャップに気づくこと,(3)自分の中間言語の穴に気づくこと,(4)自分の言語能力におけるギャップに気づくこと,などである。そのような「気づき」が第二言語習得の認知プロセス(インプット→インテイク→中間言語→アウトプット)の中にどのように位置づけられるか,あるいはU字型発達曲線や文法形態素の発達順序とどのように関連付けられるかについて,今後の課題も含めて簡潔にまとめている。


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Skehan, S. (2013). Nurturing noticing. In J. M. Bergsleithner, S. N. Frota, & J. K. Yoshioka (Eds.), Noticing and second language acquisition: Studies in honor of Richard Schmidt (pp. 169-180). Honolulu: University of Hawai’i, National Foreign Language Resource Center.


本論では,TBI(task-based instruction)と「気づき」の関連について,理論的考察を行っている。第二言語習得の各段階において,いかに「気づき」が密接に関わっているかをTBIの観点からまとめている。「気づき」は長期間にわたる言語習得プロセスのあくまで起点にすぎないこと,その気づきがしっかりと育まれ(nurture),実際の言語習得へとつながっていくためには,“post-task activity”が重要な役割を果たすことなどが指摘されている。


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Crombie, I. (1996). The pocket guide to critical appraisal: A handbook for health care professionals. Oxford: Wiley-Blackwell.


本書は副題に“医療専門職のための”と冠されているが,基本的には「研究論文の読み方」に関するもので,その内容は医療専門職に限らず,英語教育系や心理系など幅広い分野で参考になる内容となっている。論文を読む(本書の言葉で言うなら,“批判的に吟味する”)時のチェックポイントを「本質的な問い」と「具体的な問い」に分け,それぞれについてリスト形式でコンパクトにまとめている。先行研究のレビューなどをする際には,大いに参考になる1冊。


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江利川春雄・斎藤兆史・鳥飼玖美子・大津由紀雄 (2014). 『学校英語教育は何のため?』 東京: ひつじ書房.


同著者らによる『英語教育,迫り来る破綻』(ひつじ書房, 2013年)の続編。前著が近年,政府が矢継ぎ早に進めようとしている英語教育改革を各著者らの専門的見地から批判,対案を提示しているのに対して,本書では英語教育の「目的論」に焦点を当てている。著者らの基本的立場は,「グローバル人材の育成」を標榜する現在の英語教育政策は,「生徒の9割を犠牲にして,1割の英語エリートを育てる政策」であり,学校という公教育における外国語(英語)教育の目的,すなわち機会均等を原則とする学校英語教育本来の目的とは根本的に相容れないものだと指摘する。この種の議論をする際,いつも気になるのは,現状の中高大の英語教育の問題点をもう少し丁寧に整理する必要があるということ。やはり,これなしでは生産的な議論はあまりできそうにない(もちろん,著者らはこのことを十分に認識しているだろう)。こういった研究こそ,学会や立場を超えて,喫緊に取り組むべき課題だと思う。


2014年7月

Singleton, D. (2014). How do attitude and motivation help in learning a second language? In V. Cook & D. Singleton (Eds.), Key topics in second language acquisition (pp. 90-107). Bristol, UK: Multilingual Matters.


第二言語習得における態度と動機に関する研究を簡潔にまとめたもの。動機づけプロパーではない研究者が執筆していることもあり,普段とは少し異なった側面から動機づけの研究を見つめ直すことができる。


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Kao, T., & Oxford, R. L. (2014). Learning language through music: A strategy for building inspiration and motivation. Syetem, 43, 114-120.


学習方略の1つとして,音楽(Hip Hop)を使った英語学習法についてまとめたもの。自分で選んだ曲を繰り返し聞き,歌詞を分析・解釈することを通じて,英語圏の文化に対する理解を深めることができるとしている。音楽・言語・文化を結びつけた個人の実践(本文の言葉では,"the triad of simple and flexible learning strategy")を"self-directed learning"の観点から理論化しようと試みている。


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柴田美紀・横田秀樹 (2014). 『英語教育の素朴な疑問』 東京: くろしお出版.


英語教育に関するさまざまな「思い込み」を応用言語学・第二言語習得研究の成果から見直そうとしたもの。この種の書籍ではあまり取り上げられない教室での英語使用やライティング指導,リンガ・フランカ英語などまでカバーされている。また,書籍の冒頭には初学者用に用語の解説,各章の初めと終わりにはその章をより深く理解するための工夫がなされており,学部生・院生などにも広く薦めたい1冊となっている。


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Jin, L., et al. (2014). Studying the motivations of Chinese young EFL learners through metaphor analysis. ELT Journal, 68, 286-298.


中国の小学生を対象にした調査。一般的なアンケートでは回答するのが難しそうな対象者に対して,メタファを用いて英語学習に対するイメージを表現してもらうといったアプローチを紹介している。


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Singleton, D. (2014). Is there a best age for learning a second language? In V. Cook & D. Singleton (Eds.), Key topics in second language acquisition (pp. 17-36). Bristol, UK: Multilingual Matters.


この分野における先導的研究者の1人が,年齢と第二言語習得/学習にまつわる諸問題を豊富なデータをもとに分かりやすくまとめたもの。


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養老孟司 (2014). 『「自分」の壁』 東京: 新潮社.


自分を知るということが大事。ただし,「自分探し」をしていても,自分は見つけられない。自分を知るためには,自分よりも他人を知った方が早い。


2014年6月

藤井孝一 (2013). 『読書は「アウトプット」が99%』 東京: 三笠書房.


本を読んだ後のアウトプットを意識することで,本の読み方(インプット)が変わるというのが,本書の主張。「話す」「書く」「行動する」を前提とすることで,より主体的にインプットと関わることができる。言語習得のインプットの取り入れ方にも,同様のことが言える。


アウトプットの具体例として,自分の言葉で置き換える「意訳」が挙げられている。これは授業でもたまに取り上げるが,プロダクションプロセスの「概念化」から「形式化」のプロセスを鍛える上で効果的なトレーニング法になる。同様に,「書評」を書く時の3つのポイントとして,「何が書いてあったか」「そこから何を学んだか」「それをどう活かすか」が挙げられている。プレゼンテーションを準備する際にも,意識しておきたい大事なポイント。


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Konno, K. (2014). Motivational practices for enhancing EFL learners’ self-determination and the L2 self. ARELE, 25, 191-206.


本論は,動機づけを高めることを意図した指導実践を通じて,学習者のL2 selfを変容させられるかを検討したもの。私自身,類似した研究をいくつか10年近く前に行った記憶がありますが,その時からずっと気になっているのが,この種の指導実践(教育介入)のどういった側面が動機づけやL2 selfの変容・変化につながっているのかをもっとミクロを調べていかないといけないということ。動機づけの変容・変化の中身(メカニズム)は「ブラックボックス」のまま,10年以上の月日が経ってしまった(自戒の意味を込めて)。


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Mizumoto, A., Urano, K., & Maeda, H. (2014). A systematic review of published articles in ARELE 1-24: Focusing on their themes, methods, and outcomes. ARELE, 25, 33-48.


本論はこれまでARELE(第1号~第24号)に掲載された450本の論文を対象とし,主として3つの側面(研究テーマ,研究方法,研究結果)から体系的に分析したもの。結果として,全24号は傾向の異なる2つのグループ(前半12号と後半12号)に分類できること,それぞれのグループには特徴となるキーワードが見られること,研究テーマは指導(teaching)から学習(learning)に移ってきたこと,研究は高校生・大学生を対象とした実証研究が主なことなどを明らかにしている。


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Silvia, P. J. (2007). How to write a lot: A practical guide to productive academic writing. Washington, DC: American Psychological Association.


この時代,「まとまった時間」などなかなか取れない。以前も書いたが,「まとまった時間を作って,本でも書こう」と思ってから早数年,まったく進まなかった(その反省を活かして,今年度は5月末までにA4で30枚書いた)。とは言いながら,ただでさえしんどい「書く」という作業を,すでにしんどいスケジュールの中に組み込むというのはとても難しい。本書は,そのような状況下においても,どのようにして書くか,あるいは書き続けるかということを豊富な具体例をもとに説明したもの。著者によれば,書く時間を見つける(find)のではなく,スケジュールの中に(会議や授業と同様)書く時間を割り当てる(allot)ことがもっとも大切だと言う。「まずは週4時間から」ということだが,やってみる価値はありそうなストラテジー。


「書く」ということに関連して,深くうなづいた箇所(p.77)。


Conferences are great for meeting old friends and seeing what fellow researchers are doing, but conference presentations are neither peer reviewed nor archived. Publication is the natural end point of the process of research.


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Kormos, J., & Csizer, K. (in press). The interaction of motivation, self-regulatory strategies, and autonomous learning behavior in different learner groups. TESOL Quarterly, 48.


動機づけと自己調整方略が自律学習に対して与える影響を質問紙データとSEMを使って分析したもの。同時に,その影響関係が高校生,大学生,成人学習者で異なるのかどうかも検討している。結果として,想定されたモデルは3つの学習者グループにほぼ同様に当てはまるものであったこと,学習リソースの自律的使用を促進するには効率的に時間管理をしたり,学習機会を自ら進んで求めるような積極性が重要であることが示唆された。


2014年5月

林日出男 (2012). 『動機づけ視点で見る日本人の英語学習: 内発的・外発的動機づけを軸に』 東京: 金星堂.


本書は,日本人の中高大における英語学習を内発的・外発的動機づけの枠組みから分析・考察している。序論部分では,Gardnerの社会教育モデルの概要,問題点,Gardner以降の展開に触れたのち,DeciとRyanの自己決定理論に基づき,内発的・外発的動機づけの詳細について概観している。その後は,主として回想法を用いた調査法により,中高大にわたる英語学習動機づけの変化とともに,その変化に影響を与えた要因について多角的な観点から検討している。一連の実証研究に基づいた考察からは,内発的・外発的動機づけは並列的に自律的動機づけを育む役割を担い,両者間には循環的影響関係があるとするモデルが提示されている。ともすれば,内発的動機づけだけが重視・注目される学校教育場面において,内発的動機づけのみの状態は長続きしないこと,内発的動機づけは外発的動機づけのサポートにより維持・向上されること,内発的動機づけと自己決定型外発的動機づけの併存・融合が理想的なことを理論実証的に示した本研究は,研究面でも教育面でも大いに示唆に富むものと考える。


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Riazi, A., & Candlin, C. (2014). Mixed-methods research in language teaching and learning: Opportunities, issues and challenges. Language Teaching, 47, 135-173.


応用言語学・第二言語習得研究における混合研究法(mixed-methods research: MMR)の利用状況と課題についてまとめたレビュー論文。ここ10年ほどの間に国際誌で発表された論文の分析からは,研究のいずれかの段階で量的・質的手法の両方を統合・併用している研究が増えており,混合研究法が徐々に一般的な研究方法となってきていることがわかる。その一方で,量的・質的手法で矛盾する結果が得られた場合の対応や研究方法のトライアンギュレーションの実際(その概念化と操作化)など,さらなる検討を要する課題も残っている。


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Busse, V., & Walter, C. (2013). Foreign language learning motivation in higher education: A longitudinal study of motivational changes and their causes. Modern Language Journal, 97, 435-456.


本論は外国語(ドイツ語)を学ぶ大学生の動機づけの変化を,mixed-methodsを用いながら縦断的に検討したもの。特徴としては,動機づけ特性の異なる学習者(計12名)を抽出し,5回にわたってインタビュー調査を行っていることや,学習状況にsensitiveな動機づけの測定・評価を可能にするため,特定のタスクに取り組む際の内発的動機づけや自己効力感に焦点を当てていることなどが挙げられる。結果として,時間の経過とともに,学習者のドイツ語の熟達度を高めたいという欲求は高まる一方で,学習への取り組みに対する楽しさやコミュニケーションに対する自信は減っている傾向にあったことが明らかとなった。動機づけ減退の1つの要因が,学習者の外国語カリキュラムに対する認識(専門は専任の教員が教えているのに,語学は非常勤や大学院生が担当している)に向けられている点は重要なポイント。全体の構成がしっかりしているので,論文を書く際にも参考になる点が多々ある。


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Ma, R., & Oxford, R. (2014). A diary study focusing on listening and speaking: the evolving interaction of learning styles and learning strategies in a motivated, advanced ESL learner. System, 42.


学習スタイルと学習方略がどのように相互作用しながら実際の学習行動を規定しているか,約3か月間にわたるダイアリー調査の結果から分析・考察したもの。


2014年4月

Ushioda, E. (2014). Motivational perspectives on the self in SLA: A developmental view. In S. Mercer & M. Williams (Eds.), Multiple perspectives on the self in SLA (pp. 127-141). Bristol, UK: Multilingual Matters.


Mercer, S. (2014). The self from a complexity perspective. In S. Mercer & M. Williams (Eds.), Multiple perspectives on the self in SLA (pp. 160-176). Bristol, UK: Multilingual Matters.


前者は動機づけ的視点,後者はダイナミックシステム理論の観点から,自己(self)と第二言語習得との関連を考察している。例えば前者では,これまでの研究は動機づけに影響を与える要因を内的要因・外的要因に区別してきたこと,外的要因の典型例である教師の動機づけ方略使用は学習者の動機づけには直接は結びついていないこと,学習者の外的要因に対する認知(認識の仕方)が彼らの動機づけに影響を与えていることを指摘している。この指摘から,学習者の動機づけを(ソトから)高めようとする場合には,いかに彼らの動機づけの内在化(internalization)を支援できるかがポイントになることがわかる。


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Kartchava, E., & Ammar, A. (2014). Learners’ beliefs as mediators of what is noticed and learned in the language classroom. TESOL Quarterly, 48, 86-109.


学習者の個人差が第二言語習得のプロセスに与える影響を検討したもの。より具体的には,学習者のビリーフが修正フィードバックに対する気づき,ならびにその後の学習成果とどのような関連を持つかを相関分析を中心に調査している。結果として,フィードバックの重要性を認識している学習者ほど,その意図に気づく傾向がわずかながら確認された一方,学習成果との明確な関連は見られなかった。この類の研究は対象となる変数をどのように操作化するかによって,結果にかなりばらつきが見られることがこの研究からも示唆される。


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Mega, C., Ronconi, L., & Beni, R. (2014). What makes a good student? How emotions, self-regulated learning, and motivation contribute to academic achievement. Journal of Educational Psychology, 106, 121-131.


感情,自己調整学習,動機づけがどのようなプロセスを経て学業成績に影響を与えているかを,SEMを利用して分析したもの。結果として,肯定的な感情は自己調整学習と動機づけに媒介されたときのみ学業成績の向上を促すことなどを指摘している。


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Reeve, J. (2013). How students create motivationally supportive learning environments for themselves: The concept of agentic engagement. Journal of Educational Psychology, 105, 579-595.


学習に対する主体的な取り組みを表す構成概念として“engagement”という概念がある。本研究ではこれまでに用いられてきた“behavioral/emotional/cognitive”という3つの概念に加えて,“agentic”という新たな要素を加えることを提案している。尺度の開発や他の構成概念との関連等を調査することで, “agentic engagement”が自律性を支援する学習風土の重要な予測因になり得ることを示している。


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小柳かおる(2012)「言語発達を支える基本的認知能力:第二言語習得における言語適性研究との関わり」 『第二言語としての日本語の習得研究』 第15号,59-91.

小柳かおる(2013)「タスクによる言語学習が第二言語習得にもたらすインパクト:インターアクションおよび認知的な観点から見たタスク」 『第二言語としての日本語の習得研究』 第16号,16-37.


前者は,近年の第二言語習得における言語適性研究のレビュー論文で,主要な研究から得られる成果・意義・課題(主として,Skehanの理論的枠組みに基づく)と今後の研究の方向性について展望している。後者は,タスク研究の理論的基盤とそれが教室指導にもたらす実践的示唆についてまとめている。


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Chang, A., & Millett, S. (2014). The effect of extensive listening on developing L2 listening fluency: Some hard evidence. ELT Journal, 68, 31-40.


本論では3つのグループ(reading only, reading while listening, listening only)に対する13週間にわたる多聴指導の効果を調査している。3グループを独立変数,プレ-ポストを含む4回のテストを従属変数としたMANOVAによる分析の結果,リスニングの流暢さを伸ばすにあたっては,リスニングだけに焦点をあてるよりも,リーディングとリスニングを同時に並行して指導した方がより効果的であったことを報告している。


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Siegel, L. (2013). Exploring L2 listening instruction: Examinations of practice. ELT Journal, 68, 22-30.


本論はリスニング授業の中で,実際にどのような活動が行われているかを実証的に調査したもの。事前に確定したカテゴリーによって,30のリスニングクラスで行われていた活動をコード化した。結果として,多様なタイプの活動を取り入れていた授業もあった一方,リスニングの指導(teaching)ではなくテスト(testing)が主眼となっている授業もあったことが確認された。


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Paesani, k. (2011). Research in language-literature instruction: Meeting the call for change? Annual Review of Applied Linguistics, 31, 161-181.


Paran, A. (2008). The role of literature in instructed foreign language learning and teaching: An evidence-based survey. Language Teaching, 41, 465-496.


外国語指導と外国文学の指導との接点に焦点をあてたレビュー論文。language-literature divideを克服し,両者を有機的に統合した指導をいかに実践するかについて,多くの示唆を提示している。


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Baba, K., & Nitta, R. (2013). Phase transitions in development of writing fluency from a complex dynamic systems perspective. Language Learning, 64.


ライティングにおける流暢さの発達について,ダイナミックシステム理論(DST)の観点から検討したもの。phase transitionが起きたかどうかを検証するために4つの指標を取り上げ,いつ,どのような状況下で学習者のライティングに質的な変化が生じていたのかを調べている。学習者の実際の作文例やコメントなどを用いて,データのトライアンギュレーションもされており,多くの点で参考になる論文だと考える。​