研究ジャーナル

研究テーマに関する書籍,論文の読書ノートです。

2017年3月

Révész, A., Kourtali, N., & Mazgutova, D. (2016). Effects of task complexity on L2 writing behaviors and linguistic complexity. Language Learning, 67, 208-241.


従来,タスクの複雑さがスピーキングのパフォーマンスに与える影響についてはある程度研究されてきたが,本論はその枠組みをライティングに応用したもの。ライティングのトピックをサポートする情報を与えるか否かによってタスクの複雑さを操作化し,それによって対象者のライティングの流暢さ,書き直し,言語的な複雑さなどに差が出るかどうかを検証している。言語的なデータだけでなく,刺激再生法などを用いたインタビュー分析の結果,トピックをサポートする情報によって対象者のプランニング時の認知的負担が軽減され,結果として,言語項目への注意が促進されたことを報告している。得られた結果は驚くようなものではないが,ある程度予測のつくことを実際にデータを示しながらしっかりと確かめている点は(科学研究としては)重要なこと。ただ,それ以上に重要なこととしては,本論のような研究が積み重ねられていくことで,タスクの難易度を明確化したり,どのようにタスクを配置するかといったカリキュラムデザインが可能となり,タスクに基づいたより効果的な指導への示唆が得られるようになるということ。


--------------------


Saito, K., & Akiyama, Y. (2017). Video-based interaction, negotiation for comprehensibility, and second language speech learning: A longitudinal study. Language Learning, 67, 43-74.


本論は,週一回の動画を用いたネイティブスピーカーとのインタラクションを半期にわたって継続的に行うことで,日本人の大学生英語学習者のスピーチプロダクションにどの程度の向上が見られるかを実証的に調査したもの。インタラクションの有無,有りの場合はその質・量ごとに分析しているだけでなく,スピーチは多角的な観点(理解可能性,アクセント,発音,語彙など)から測定・評価している。その結果,発音など一部の領域には顕著な変化が見られなかったものの,その他の多くの領域ではプレ-ポストテスト間に有意な変化が確認された。教室外でのアウトプットの機会が限られたEFL環境において,スカイプなどを通じた会話練習にも(一定の条件が満たされれば)十分な効果が期待できることを示唆している。


--------------------


Pigott, J. D. (2011). Self and motivation in compulsory English classes in Japan. In A. Stewart (Ed.), JALT2010 Conference Proceedings (pp. 540-550). Tokyo: JALT.


Pigott, J. (2012). It’s for your own (country’s) good: The struggle to be a motivated English learner in Japan. In A. Stewart & N. Sonda (Eds.), JALT2011 Conference Proceedings (pp. 426-433). Tokyo: JALT.


本論は,英語学習・指導の必要性を動機づけ研究の観点から批判的に検討したもの。なぜ,英語を学び,教えなければならないのか。なぜ,動機づける(motivating)ということが必要なのかは,必ずしも自明ではない。英語を使うかどうか(本当は)定かではない将来のことを考えながら学習・指導するより,目の前の教室で起きている「いま・ここ」に注目することの方が,動機づけを考える上では重要かもしれないという問題提起をしていると感じた。


--------------------


Pigott, J. (2012). A call for a multifaceted approach to language learning motivation research: Combining complexity, humanistic, and critical perspectives. Studies in Second Language Learning and Teaching, 2, 349-366.


従来の動機づけ研究,あるいは広い意味での個人差要因に関する研究の課題を指摘した上で,新たなアプローチの可能性について検討している。複雑性理論に言及している点は他の研究でも数多く見られるが,本論で特徴的なのはcomplexity,humanistic,criticalの3つの視座を統合し,多層的なアプローチにより動機づけを捉えるといった方法論を提案している点。魅力的とは感じるものの,具体的な適用例などは紹介されていないというのが残念(物足りない)ところ。


--------------------


齋藤孝 (2016). 『新しい学力』 東京: 岩波書店.


2020年の新しい学習指導要領改訂を見据えて,今後,求められる「真の学力」とは何かについて批判的に検討したもの。教科の再編,アクティブ・ラーニングの導入,評価基準の変化など,さまざまな改革が予定されているが,それらを通じて育成を目指す「新しい学力」とは何か,それをどう指導・評価するのかについては,おおよそ第一章で簡潔にまとめられている(当該内容に関心がある読者は,この章を読むだけで十分だと思われる)。第二章以降は,第一章の内容を踏まえて,具体的にどのような点が課題・問題点として考えられるのか,それらを解決するためにはどのようなことが求められるのか,実際の教室場面ではどのような指導が可能なのかについて,著者自身の考えや実践法が紹介されている。


本書では一貫して,「伝統的な学力」と「新しい学力」を対比させる形で論が進められている。その上で,「真の学力」を伸ばしていくためには,伝統的な学力が求めている「教育内容」を,新しい学力で求めている学びの「スタイル」で学んで(教えて)いくこと,つまり,伝統的な学力と新しい学力を融合し,バランスよく育てていくことが重要だとしている。アクティブ・ラーニングは単に指導形態の1つに過ぎないこと,したがって問題解決能力を鍛えるといっても,その思考・判断の背景にはしっかりとした知識がなければいけないことを強く感じさせる。


--------------------


Alrabai, F. (2015). The influence of teachers’ anxiety-reducing strategies on learners’ foreign language anxiety. Innovation in Language Learning and Teaching, 9, 163-190.


本論は,第二言語不安の軽減を目的とした教育的介入の効果を実証的に検討したもの。研究のデザインは,同著者がApplied Linguisticsに掲載している論文(こちらは動機づけ方略の効果を検証したもの)とほぼ同じ(おそらく,同時期に行われた調査だと思われる)。介入の結果,不安の軽減が確認され,指導の有効性が主張されている。一方で,実際にどのような指導が行われたのかに関する具体的な記述はほぼなく,指導の中身は「ブラックボックス」のまま。そのため,調査を踏まえた教育的示唆についても通り一辺倒のことしか述べられておらず,指導上の実践的なヒントはあまり得られない。


--------------------


Umino, T., & Benson, P. (2016). Communities of practice in study abroad: A four-year study of an Indonesian student’s experience in Japan. Modern Language Journal, 100, 757-774.


本論は,インドネシア人の日本語学習者が4年間にわたる日本での留学経験を通じて,どのように日本語を身につけ,さらにその経験が対象者のアイデンティティ形成にどのような影響を与えたのかについて検討している。実際の分析にあたっては,「実践の共同体」の枠組みに基づき,対象者が留学中に撮影した写真を時系列に沿って分析するという手法を用いている。共同体については,「institutionally organized communities」と「self-organized communities」の2つに大別され,時間の経過とともに前者から後者の共同体へと徐々に所属が移行していくプロセスが,写真の量的・質的分析から明らかにされている。ナラティブ研究の新たなアプローチとして,今後,類似した研究が増えていく可能性が高いように感じる。


--------------------


Norouzian, R., & Plonsky, L. (in press). Eta- and partial eta-squared in L2 research: A cautionary review and guide to more appropriate usage. Second Language Research, 33.


ANOVAは第二言語に関する研究で最も頻繁に用いられる統計手法の1つだが,それとセットで用いられ,報告される効果量がイータ二乗(eta squared),ならびに偏イータ二乗(partial eta squared)である。本論では,ここ10年ほどの間に主要な国際誌5誌に掲載された論文のうち,2つの効果量を用いた論文(156編)に焦点を当て,両者が適切に用いられ,解釈されているのかについて検討している。分析の結果,偏イータ二乗が頻繁にイータ二乗として(誤って)報告されているケースが多数(34編,全体の22%)あることを明らかにした上で,その原因や問題点,ならびに改善策について議論している。


--------------------


Kangasvieri, T. (in press). L2 motivation in focus: The case of Finnish comprehensive school students. Language Learning Journal, 45.


本論は,フィンランドの外国語学習者に焦点をあて,学習する言語の種別(英語,ドイツ語,フランス語など)や必修・選択の有無によって動機づけが異なるかどうかを調査したもの。15~16歳の学習者1,200名以上を対象にしていることに加えて,第二言語の動機づけ研究ではあまり馴染みのない潜在プロフィール分析(Latent Profile Analysis: LPA)を用いているのが特徴。LPAはクラスター分析と似た統計手法だが,グループ(クラスター)の数を事前に設定して,複数のモデルのデータに対する当てはまりを(SEMのように)適合度で比較・評価できる。その点で,クラスター分析はdata-drivenで,どちらかと言えばbottom-up的な分析手法であるのに対して,LPAは理論から想定されるグループ(クラスター)数に基づいて,モデルの当てはまりを検討できるという,どちらかと言えばtop-down的なアプローチを可能とするもの。結果として,異なった特徴を持つ5つのグループが得られ,それぞれのグループに関して言語教育政策の観点から考察が加えられている。


2017年2月

Duckworth, A. (2016). Grit: The power of passion and perseverance. New York, NY: Scribner.


近年,教育やビジネス,スポーツのみならず,脳科学の分野でも話題になっているキーワードの1つ,「グリット」(grit)。本書は,グリット研究の第一人者が,一般の読者向けに自身がこれまで行ってきた研究を分かりやすくまとめたもの。著者によれば,グリットとは「情熱」(passion)と「粘り強さ」(perseverance)の2つの構成要素から成るもの。それぞれの分野で成功し,偉業を成し遂げた人にはどのような特徴(共通点)が見られるのかを実証的に調査・研究し,もって生まれた「才能」よりも「グリット」が重要なことを多くの事例から明らかにしている。本書では,グリットは伸ばせること,伸ばす方法としては,自分自身で「内側」から伸ばしたり(重要なポイントは興味,練習,目的,希望),親や教師など周りの力を借りて「外側」から伸ばすことが可能であることが述べられている。どんなことも変わらぬ情熱を持って,努力を続けることが成功への一番の近道ということであり,その意味では先に紹介した「マインドセット」(mindset)の話にもつながるものだと言える。


--------------------


Duckworth, A., & Eskreis-Winkler, L. (2015). Grit. In J. D. Wright (Ed.), International encyclopedia of the social & behavioral sciences (2nd Edition, Vol.10, pp.397-401). Amsterdam, Netherlands: Elsevier.


Duckworth, A., Peterson, C., Matthews, M., & Kelly, D. (2007). Grit: perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 1087-1101.


前者は,「グリット」とは何か,その測定方法や結果(成果)に影響を与えるメカニズムについて,コンパクトにまとめたもの。後者は,教育やスポーツなど計6つの分野において「グリット」を測定する尺度(the Grit Scale)を用いた調査を行い,その信頼性・妥当性について検討したもの。多くの調査結果から,長い時間と労力を要する目標を達成するには才能だけでは十分ではなく,その才能を長期にわたって適用し続けることが重要であることを指摘している。


--------------------


Duckworth, A., & Gross, J. (2014). Self-control and grit: Related but separable determinants of success. Current Directions in Psychological Science, 23, 1-7.


本論は,「グリット」と類似した概念である「セルフコントロール」との違いを階層的目標理論の枠組みから検討したもの。著者らによれば,最も大きな違いは,前者は達成に数年(以上)もかかるような成功,後者はより短期的な日々の小さな成功(例: 甘いものの誘惑に打ち勝って,ダイエットとして運動することなど)を対象にしている。これらを踏まえた上で,論文の後半では,両者の相違を検証することが可能な研究課題や成功を成し遂げる可能性を高める処方箋について紹介している。


--------------------


Sandstrom, U., & van den Besselaar, P. (2016). Quantity and/or quality? The importance of publishing many papers. PLoS ONE, 11, 1-16.


本論は,研究論文を数多く執筆する研究者は,(同時に)インパクトの大きい論文を発表しているのかどうかを実証的に調べたもの。スウェーデンをベースに活動する研究者が,2008-2011年に発表した計74,000本の論文(なお,引用については2014年まで)を対象に,論文の量が増えるほど質も向上する,量が増えるほど質は低下する,両者に関連はないなど,計5つの仮説について検証している。結果として,文系,理系を問わず,多くの分野において,量(数)を書いている研究者は質(インパクト)も高い論文を発表している傾向が高いことが明らかとなった。これはノーベル賞を受賞するような研究者らにも一貫して見られる傾向のようだが,このことはそもそもある程度の「量」を書かないと,「質」の高いものは書けるようにはならないということを示唆しているのだろう。


--------------------


Dweck, C. (2006). Mindset: The new psychology of success. New York, NY: Random House.


「世の中,気の持ちよう」というのはよく聞く言葉だが,たしかに私たちが何らかの行動を起こすとき,それがうまく行くか行かないか(すなわち,「成功」の可否)は気持ちの持ち方によって大きく左右される。本書は,動機づけをはじめとした心理学の分野で長く活躍してきた著者が,一般の読者向けに「成功の心理学」とも呼べる研究の成果を分かりやすく解説している。勉強,仕事,スポーツ,教育など,あらゆる分野において「心のあり方」(mindset)がいかに重要であるかを,「硬直マインドセット」と「しなやかマインドセット」を比較しながら,かつ非常に多くの具体例を挙げながらまとめている。相手の能力や才能ではなく,努力を誉めること,相手の成長を見越した課題(到達目標)を設定し,どんな方法で,どれだけ努力し,どんな選択をしたかという,学びのプロセスに着目したフィードバックを与えることなど,動機づけを高める指導実践にもつながるヒントがいくつも得られる内容となっている。


--------------------


渡邊芳之(2016)「心理学のデータと再現可能性」『心理学評論』第59号, 98-107.


本論では,心理学の実験や調査において研究結果の再現可能性が低くなる原因を(1)実験が間違っている場合,(2)(実験で統制できていない)潜在変数がある場合,(3)現象自体の生起確率が低い場合などに大別した上で,再現性と研究の妥当性の関連について議論している。著者によれば,再現性は高ければよいというわけでは必ずしもなく,求められる再現性は理論的な考察や,外的基準との関連を加味しながら検討されるべきものであるという。実験や調査において再現性が重要なことは言うまでもないが,再現可能性を高めること自体が研究の目的ではないことも忘れないようにしたい。


2017年1月

Sampson, R. (2016b). Complexity in classroom foreign language learning motivation: A practitioner perspective from Japan. Bristol: Multilingual Matters.


オーストラリアのGriffith University大学に提出した博士論文をまとめたもの。かなり前に著者から寄贈していただきましたが,なかなか手に取る時間がなく,現在に至ってしまいました(Sampsonさん,いい先生です)。高専で教鞭をとっていた当初に行われた教育実践をアクションリサーチの手法を用いて分析している。英語の教員でもあり担任でもあった著者が,自らの経験をダイナミックシステム理論という「眼鏡」を通じて分析・考察している。実践者として,研究者として,真摯にデータと向き合いながら,理論と実践を往還する姿(理論に基づき実践を組み立て,実践の結果から理論を見直し,得られたデータを新たな視点から解釈するなど)が行間から垣間見える,読んでいて多くの刺激と感銘を受ける力作。


--------------------


Sampson, R. (2016a). EFL teacher motivation in-situ: Co-adaptive process, openness and relational motivation over interacting timescales. Studies in Second Language Learning and Teaching, 6, 293-318.


本論は,著者の英語教師としての経験や認識をケーススタディの手法を用いて調査したもの。自らの指導実践を振り返るジャーナルと学習者によるジャーナルなどを突き合わせながら,ある1名の教師のteacher motivationを詳細かつダイナミックに記述している。この種の試みはそれほど多くないことから,今後,類似した研究を行おうと考える研究者にとっては示唆に富む内容となっている。


--------------------


Apple, M. T., Silva, D. D., & Fellner, T. (Eds.) (2017). L2 selves and motivations in Asian contexts. Bristol: Multilingual Matters.


同編者らによる前著(Language learning motivation in Japan, 2013, Multilingual Matters)の続編として位置づけられるもの。本書はアジアにおける動機づけ研究に焦点をあて,第二言語環境,自然習得環境で行われ(発表され)ている多くの研究の知見が外国語環境,教室習得環境にも当てはまるのかどうかについて,共通性と独自性の観点から包括的に検討している。さまざまなテーマを取り上げた研究が所収されているが,個人的には教師の指導実践と学習者の動機づけとの関連を扱ったいくつかの論考がとりわけ興味深かった。


動機づけを高める指導実践として,優れた教師らが共通して行っていたのは,特定の(1つの)指導方法を多用していたわけではなく,学習の開始,継続,振り返りにおいて,生徒とラポートを築き,英語(学習)に対する価値・期待を高め,活動やタスクを楽しく興味をそそるものにするといった,見方によっては基本的とも思えるアプローチを併用して(組み合わせて)用いていた点であり,それはまさしく「心の習慣」とでも呼べるようなものであった。我々はともすれば,何か一つ決め手になることさえ押さえておけば大丈夫(例: 食べる量を減られば痩せる)と考えがちだが,実際にはそれほど単純ではない。生徒のやる気を高めるといった時にも,「これさえやれば」といった発想ではなく,いくつかの要素を組み合わせる(動機づけを高める要因を複数で考える)といった発想が持てると,自らの指導実践をより柔軟かつメタ的に捉えられるようになる。


2016年12月

Alderson, J., Nieminen, L., & Huhta, A. (in press). Characteristics of weak and strong readers in a foreign language. Modern Language Journal, 100.


Strong/Weak readersはどのような特徴を持っているのか,そのような特徴を診断的に測定・評価することができれば,学習者の個性・適性に合わせたより適切な指導ができるのではないか。本論ではそのような想定に基づき,認知,言語,動機づけなど包括的な側面から,3つの学習者グループ(10歳,14歳,17歳)の特徴を記述・分析しようと試みている。第二言語におけるリーディング研究では,パフォーマンスの出来・不出来の原因が(第一言語を含めた)リーディング自体の問題なのか,第二言語における知識(の欠如)の問題なのかがしばしば議論となる。本研究の結果からは,Strong/Weak readersを区別する上では後者がより重要な役割を果たしていたこと(効果量で言えば,d = 5.00を超えるものもあった),ただし,第一言語や認知的・動機づけ的要因もある程度,両者を区別する要因として機能していたことを指摘している。


--------------------


Larsen-Freeman, D. (2016). Classroom-oriented research from a complex systems perspective. Studies in Second Language Learning and Teaching, 6, 377-393.


本論は,ダイナミックシステム理論の概要を簡潔に説明した後,教室第二言語習得研究にこのような枠組みを援用することで,教室内で起こる現象をより豊かに記述・解釈できることを主張するもの。先に馬場・新多(2016)の書評(『英語教育』2016年12月号に所収)でも述べたが,当該理論のような「ものの見方」を利用すれば,生徒の英語学習の実際が見方によって大きく違って見えてくることが実感できるはず。


--------------------


Hodis, F., & Hancock, G. (2016). Introduction to the special issue: Advances in quantitative methods to further research in education and educational psychology. Educational Psychologist, 51, 301-304.


量的研究の手法や方法論はつねに発展・進歩している。それらを各々のフィールドで利用する立場の応用研究者らが,最新の手法や方法論の進展についていくことはそれほど容易ではない。本特集号は,そういった読者らのために「量的研究の最前線」について,その概略や利用可能性をまとめたもの。


--------------------


Smith, R. (2016). Building ‘Allied Linguistics Historiography’: Rationale, scope, and methods. Applied Linguistics, 37, 71-87.


応用言語学史料(Applied Linguistics Historiography: ALH)に関する体系的な研究領域を立ち上げることの必要性や研究射程,その具体的な方法論について論述したもの。研究分野が成熟していくにつれて,このような研究が重要になってくることはある意味必然で,そのような機運が生まれていること自体,応用言語学,第二言語習得研究が発展・深化していることの表れだとも言える。類似した試みは,『Language Teaching』に掲載されているResearch Timelineなどにも見られるが,こういった研究史は特定の研究分野について,その歴史的変遷を大まかにつかみたいと考える院生などには大いに役立つ。


--------------------


Larsen-Freeman, D. (2015). Saying what we mean: Making a case for ‘language acquisition’ to become ‘language development’. Language Teaching, 48, 491-505.


本論は,第二言語習得の実際を考える場合,「第二言語習得」(Second Language Acquisition: SLA)ではなく,「第二言語発達」(Second Language Development: SLD)という用語を使う方がより適切であるとの立場から,その理由を計12個の具体例を挙げながら説明したもの。「習得とは何か」,「いつになったら習得したと言えるのか」,「母語話者レベルになった時か」などの議論はよくなされるが,そのような考え方・見方には様々な問題点がある。例えば,「習得」という言葉は何らかの終着点があることを含意するが,言語習得には終わりはない。さらに,学習者の言語使用は直線的に進歩する(ように見える)こともあれば,時には後退したりもする。「発達」という視点を取り入れることで,言語習得の様相だけでなく,言語を学ぶ学習者自体の実態により着目した研究が可能になる。


--------------------


Lee, M. (in press). To be autonomous or not to be: Issues of subsuming Self-Determination Theory into research on language learner autonomy. TESOL Quarterly, 51.


外国語学習における自律概念と自己決定理論における自律の類似点・相違点を比較し,誤った理解から生まれる誤解や,そのような誤解に基づく研究・実践を減らそうと意図して執筆されたもの。基本的な議論としては,前者は学習者が自身の行動に責任を持とうとする能力・態度,後者は行動の背景にある理由・目的がどれだけ自己決定性の高いものであるかどうかに焦点をあてるとして区別している。この種の議論はかなり前から行われており,全体としてあまり目新しい主張はない(私などですら,10年以上前に,「応用言語学と自己決定理論の接点:自律学習の観点から」というタイトルで拙稿をまとめている)。加えて,応用言語学・外国語学習の分野に早くから自己決定理論を援用していたNoelsらの研究には全く言及がなく,論文の内容や主張に偏りが感じられる。


2016年11月

Spada, N. (2015). SLA research and L2 pedagogy: Misapplications and questions of relevance. Language Teaching, 48, 69-81.


SLA研究と第二言語学習・指導とのインターフェイス,より具体的にはSLAに関する理論や研究を誤って第二言語学習・指導に適用してしまうこと(misapplication)に焦点を当てたもの。3つのトピック(教室内指導,年齢の役割,明示的/暗示的知識)を取り上げ,例えば年齢については,多くの研究はESL環境(しかも自然習得)で行われたものであり,EFL環境(教室習得)には必ずしも得られた成果・知見は当てはまらないことを指摘している(近年,各方面で注目されているMuñozらによる一連の研究は,まさにこの点を主張したもの)。教師はとかく研究の「お墨付き」(?)が欲しいと願うが,SLA研究は主として“(SL)A”(acquisition)をその射程としており,学習や指導の参考に利用する場合は常に注意すべきである。


--------------------


VanPatten, B. (in press). Why explicit knowledge cannot become implicit knowledge. Foreign Language Annals, 49.


同誌に掲載されたLindseth(2016)にコメントする形で執筆されたもの。先の論文では,明示的学習と練習(form-focused instruction)によって暗示的知識の発達が促されたとしており,類 似した研究は近年の教室内第二言語習得(ISLA)の分野には少なからず見られる。それらに対して,著者は生成文法の立場から,明示的知識が暗示的知識になることはないこと,研究の結果は学習者がただ単に明示的知識をより早く,よりスムーズに処理できるようになっただけに過ぎないことを指摘している。主張としては分かるが,暗示的知識を持っている(使っている)状態と,明示的知識を素早く処理している(使っている)状態を区別することが可能なのか,疑問が残る。おそらく著者は,「だから,言語とは何か,規則とは何か,知識とは何か,をより厳密に定義すること,その(操作的)定義に基づいて実験を行うことが必要なんだ」と答えるのでしょうけど。


--------------------


Ushioda, E. (2016). Language learning motivation through a small lens: A research agenda. Language Teaching, 49, 564-577.


第二言語習得における動機づけ研究の課題として,「一般的」「全体的」「マクロ的」な視点に基づく研究が大勢を占めている点を挙げ,よりローカルで,実際に学習が行われるコンテクストを重視した,特定の現象や活動にフォーカスした研究の必要性を指摘している。さらに,今後の研究で取り組むべき課題も7つほど具体的に紹介されており,現在,どのような研究が求められているのか(欠けているのか),把握できる内容となっている。


--------------------


Dong, J. (2016). A dynamic systems theory approach to development of listening strategy use and listening performance. System, 63, 149-165.


本論は,リスニング方略とリスニング・パフォーマンスとの関連をDSTの観点から記述・分析したもの(学習方略の分野でDSTを用いた研究はこれまでのところ数少ない)。中国人EFL学習者を対象に約40週にわたって毎回2週間おきに調査を行い,得られたデータをmoving min-max graph,Loess smoothing,moving window correlationなどを用いて分析している。結果として,リスニングの方略使用とパフォーマンスの間には直線的な関連は確認できず,調査が進むにつれて両者の関係はより弱くなる傾向が見られたこと,調査期間中にphase shiftと考えられる大きな変動が方略使用に確認されたことなどを指摘している。本論の結果から,2時点のデータ収集だと,どの時点にデータ収集のポイントがあったか(つまり,いつデータを取ったか)によって,大きく異なる結果が得られる可能性があること,したがって少なくとも3時点などデータ収集のポイントを増やすことで,ダイナミックで非直線的な第二言語発達(SLD)の諸相をより詳細に捉えられることが示唆される。


--------------------


Spoelman, M., & Verspoor, M. (2010). Dynamic patterns in development of accuracy and complexity: A longitudinal case study in the acquisition of Finnish. Applied Linguistics, 31, 532-553.


下記のHiver & Al-Hoorie(2016)において,DSTに基づく研究の方法論上の留意点を説明する際にサンプルとして用いられた論文。本論ではフィンランド語を学ぶドイツ人学習者を約3年にわたって縦断的に追いかけ,対象者のライティングの発達プロセスをDSTの観点から検討している。具体的には,ライティングパフォーマンスの正確さと複雑さに焦点を当て,DSTにおいて頻繁に用いられる分析手法であるmoving min-max graphやモンテカルロ法を用いたシミュレーションなどが行われている。結果として,時間の経過とともに,複雑さを測定するいくつかの指標間には相互作用が見られた一方,正確さと複雑さの間には特に有意義な関連は見られなかったことを報告している。


--------------------


Hiver, P., & Al-Hoorie, A. (2016). A dynamic ensemble for second language research: Putting complexity theory into practice. Modern Language Journal, 100, 1-16.


ダイナミックシステム理論(DST)に基づいた第二言語発達(SLD)研究を行う上での方法論上の留意点をまとめたもの。枠組みや原理としては魅力的な本理論を実際の研究においてどのように用いたらよいのかを「Operational」「Contextual」「Macro-System」「Micro-Structure」といった4つの観点から整理し,実際の調査・研究で利用できる可能性が高い5つのアプローチを紹介している。


--------------------


Dörnyei, Z. (2016). From English language teaching to psycholinguistics: A story of three decades. In R. Ellis (Ed.), Becoming and being an applied linguist: The life histories of some applied linguists (pp. 119-135). Amsterdam: John Benjamins.


動機づけ研究の分野で先導的な役割を果たしているDörnyeiが,これまでどのようなプロセスを経てキャリアをスタートさせ,現在に至っているのかをエッセイ風にまとめたもの。


--------------------


菊地恵太・酒井英樹(2016)「英語学習動機の変化に影響を及ぼす要因: 動機高揚経験及び減衰経験の内容分析」JALT Journal, 38, 119-147.


中高における動機づけ変化のプロセスとその原因・理由を,大学生を対象とした回顧的調査から明らかにしようとしたもの。これまでに類似した調査はいくつか行われているが,それらの研究における方法論上の問題点を指摘した上で,本研究を計画・実施している点が特徴の1つ(例えば,動機が変化した時期とその原因をより精緻に照合できるように工夫している)。結果として,同じ要因が動機を高めたり,低めたりすることがある一方,発達段階(中高の学年)ごとに異なる要因が動機の変化に影響を与えている可能性も明らかにしている。


2016年10月

Teng, L. S., & Zhang, L. J. (2016). A questionnaire-based validation of multidimensional models of self-regulated learning strategies. Modern Language Journal, 100, 674-701.


本論は,ライティング分野における自己調整学習方略に焦点を当て,尺度開発とその妥当性検証についてまとめたもの。中国の6つの大学で学ぶ計790人の大学生を対象に調査を実施し,検証的因子分析を用いて想定された3つのモデルの比較・評価を行っている。結果として,高次の「自己調整」(self-regulation)因子が9種類の自己調整方略から成る下位因子を説明するモデルがもっともデータとの当てはまりが良かった。さらに,重回帰分析の結果からは,9種類のうち6つの方略において,ライティングテストへの影響が認められた。


--------------------


Williams, M., Mercer, S., & Ryan, S. (2015). Exploring psychology in language learning and teaching. Oxford: Oxford University Press.


本書は,教育・社会心理学における重要なトピックを取り上げながら,それらと外国語学習・指導との関連を探ろうとしたもの。例えば,動機づけを扱ったチャプターでは,心理学分野の代表的な理論を概観した後,外国語学習における動機づけ理論の歴史的流れや進展について簡潔にまとめている。全体を通じて,タスクやディスカッション・クエッションが豊富に設けられているだけでなく,コンパニオン・ウェブサイトも用意されているなど,“user-friendly”な充実した内容となっている。


--------------------


Collentine, J. (2009). Study abroad research: Findings, implications, and future directions. In M. H. Long & C. J. Doughty (Eds.), The handbook of language teaching (pp.218-233). Chichester, UK: Blackwell.


本論は,海外留学に関するレビュー論文。研究の歴史的な流れについて概観した後,主要なトピックに焦点を当てながら,これまでに得られている成果と課題を簡潔にまとめている。報告されている研究の多くはアメリカの大学生を対象にしたものが大勢を占めるが,現在の留学生人口の約80%はアジア圏出身の学生が占めるというデータもあり,より幅広い学生を対象にした研究が求められる。その他,留学の成果を十分に享受するために必要な「閾値レベル」を特定していくことや,SLAの知見に基づいた留学プログラムやカリキュラムを開発していく必要があることも課題として挙げられている。


--------------------


Alloway, T., & Alloway, R. (2012). The working memory advantage: Train your brain to function stronger, smarter, faster. New York: Simon & Schuster.


第二言語習得の研究分野では,言語適性に関する研究は長らく「不人気」であった。その理由はいくつかあるだろうが,1つには言語適性が安定的なもの,変化しないものであり,結果としてあまり教育的な応用も見込めないという認識があったものと思われる。一方で,近年は認知心理学における研究の進展もあり,適性に対する見方・捉え方が大きく変わってきている。その代表例がワーキングメモリである。


本書の前半部分は,ワーキングメモリとは何かを分かりやすく説明した上で,仕事,学習,スポーツ,そして人生において成功するにはワーキングメモリが欠かせないことを指摘している。そのような議論に基づき,後半部分はワーキングメモリの発達過程を押さえた上で,その効率的なトレーニング方法を豊富な具体例を挙げながら紹介している。日常の多くの場面において,ワーキングメモリは重要な役割を果たしている。そのような能力を,著者らは「輪ゴム」に例え,どの輪ゴムにも伸縮性があり,強化することができるとしている。加えて,よく類似した概念として取り上げられるIQとの違いについては,「IQとは,あなたが知っていること」,「ワーキングメモリとは,あなたが知っていることを利用してできること」だと,その違いを明快に区別している。タスクを重視した近年の英語教育とも相性がいい本概念には,今後も研究,教育ともに多くの注目が集められるものと思う。


2016年9月

Mizumoto, A., & Chujo, K. (2016). Who is data-driven learning for? Challenging the monolithic view of its relationship with learning styles. System, 61, 55-64.


一般的に,演繹型(deductive)の学習者に比べ,帰納型(inductive)の学習者はその特性からデータ駆動型学習(DDL)に基づく学習に向いていると考えられる一方,DDLは様々な学習スタイルを有する学習者に有効だとする主張もある。本研究は,そのギャップを埋めることを目的として実施されたもので,結果として,帰納・演繹にかかわらず,いずれのスタイルを有する学習者もDDLによるタスクの価値をほぼ同様に認識していたこと,言い換えれば,DDLによる指導はどちらのタイプの学習者にも効果が期待できることを指摘している。


--------------------


Mizumoto, A., Chujo, K., & Yokota, K. (2016). Development of a scale to measure learners’ perceived preferences and benefits of data-driven learning. ReCALL, 28, 227-246.


本論は,データ駆動型学習(DDL)に関する尺度開発について報告したもの。具体的には,嗜好性(preferences)と利便性(benefits)の2つの下位尺度から構成される質問紙尺度を,いわゆるルーティン化されたプロセスを通じて作成し,妥当性の検証を行っている(尺度開発の手順(プロセス)については,その詳細が丁寧に記述・説明されている)。近年,コーパスを使った研究は多くの分野で注目を集めているが,その応用的な実践例となるDDLは教室内外において学習者の自律学習を促進する有効なツールとなり得る。


--------------------


Seker, M. (2016). The use of self-regulation strategies by foreign language learners and its role in language achievement. Language Teaching Research, 20, 600-618.


本論は,トルコの大学で外国語(英語)を学ぶ学習者の自己調整方略使用と言語熟達度との関連を検討したもの。事前に外国語教師を対象としたインタビュー調査から,優れた学習者は「… can study independently (94.1%), regularly (88.2%), and consciously (86.2%)」だと考えている一方,実際の教室場面においては,ほとんどの教師が自己調整学習的な要素を授業の中に組み込んでいないことを明らかにしている。その上で,先行研究のレビューに基づき,「自己調整学習」を3つの側面(orientation, performance, evaluation)から測定する質問紙尺度を開発し,4技能+語彙・文法からなる熟達度テストとの関連を相関分析や回帰分析により検討している。必ずしも期待通りの結果が得られたわけではないこと,構成概念の操作化が従来の「ラベル」を張り替えたものに過ぎないことなど改善すべき点も見られるが,論文の構成や記述の明瞭さなど参考になる点も多い。


--------------------


Saito, K., & Hanzawa, K. (2016). Developing second language oral ability in foreign language classrooms: The role of the length and focus of instruction and individual differences. Applied Psycholinguistics, 37, 813-840.


本論は,EFL環境における英語指導が口頭能力の発達に与える影響を実証的に検討したもの。時間制限付きの絵描写タスクによって得られたスピーチデータを様々な観点から分析することにより,中高6年間の指導が口頭能力の発達にどの程度インパクトを与えるのか,そのようなインパクトを予測する上で,指導の長さや焦点,L2による会話の頻度,適性や動機づけなど,どういった要因がより重要な役割を果たしているのかを調査している。結果から,インプットが限られたEFL環境では,高校時代にどれだけ教室外で英語を勉強していたか,発音に関する指導をどれだけ受けていたか,英語によるコミュニケーションの機会(とりわけノン・ネイティブの話し手との機会)をどれだけ多く持っていたかが口頭能力の発達には重要だとしている。従来,インプットの質や量については多くの議論がなされてきたが,学習の時期(中学,高校)についても学習効果の最大化に影響を与える可能性があることを指摘している点は注目に値する。


--------------------


Suzuki, Y., & DeKeyser, R. (in press). Exploratory research on second language aptitude distribution: An Aptitude x Treatment interaction. Applied Psycholinguistics, 37.


本論は,2つの言語適性(言語分析力とワーキングメモリ)が異なった文法の学習方法(分散学習と集中学習)の成果をどの程度予測できるかを検討したもの。結果として,分散学習では言語分析力,集中学習ではワーキングメモリがより重要な役割を果たしていたといった交互作用(ATI)が見られた。この種の研究から得られる知見が積み重ねられることにより,例えば限られた学習時間をどのようにスケジューリングすれば,より高い学習成果を上げられるかといった,個人差に応じた指導・支援への具体的ヒントが得られるようになると期待される。


--------------------


Llanes, A. (2011). The many faces of study abroad: An update on the research on L2 gains emerged during a study abroad experience. International Journal of Multilingualism, 8, 189-215.


留学経験がL2熟達度に与える影響を検討したレビュー論文。関連する研究を包括的に整理し,とりわけ学習が行われるコンテクスト(本論では,自然環境,外国語環境,イマ-ジョン環境,留学環境の4つに分類)の観点から,留学の効果を検証している。全体的に,留学経験がL2熟達度に肯定的な影響を与えていたと報告する研究が多い一方,対象となる調査協力者の少なさ,対象となる言語技能(大半が口頭能力や語彙力)やサンプルの偏り(大半が大学生),あるいは留学経験がその後の学習に与える影響など,十分に検証が行われていない課題についても明らかにしている。


--------------------


Allen, H. (2010). Language-learning motivation during short-term study abroad: An activity theory perspective. Foreign Language Annals, 43, 27-49.


本論は,短期(6週間)の留学プログラムに参加した大学生6名の学習動機の発達・変化を,活動理論(基盤にあるのはヴィゴツキーらの社会文化的アプローチ)の観点から検討したもの。プログラムに参加した学習者の動機は,大きく2つのタイプ(言語そのものに対する興味・関心,就職や単位などの実用的なもの)に分類されたこと,それらの動機が彼らが留学前に立てた目標(言語,文化,社会に関するもの)の実現・非実現に異なった影響を与えていたことなどを,ブログの内容やインタビューデータの分析を用いて質的に記述・考察している。


2016年8月

馬場今日子・新多了 (2016). 『はじめての第二言語習得論講義: 英語学習への複眼的アプローチ』 東京: 大修館書店.


本書は,一般の読者を対象とした第二言語習得研究の入門書。いくつも特徴や工夫が見られるが,そのうちの1つは,これまでの類書が扱っていないテーマ(例えば,トマセロの言語習得論や複雑系理論,マックアダムズのニュー・ビッグファイブモデルなど)について積極的に取り上げている点。このことは著者らが最新のSLA研究にも精通し,まさに自身らもその一翼を担っていることを示している。もう1つは,SLAに関するさまざまな現象を読み解く上での「ものの見方」をいくつも提示しており,副題に見られるように複眼的に第二言語習得を捉えることを可能にしている点。読者は,本書で手に入れた「ものの見方」を統合的に用いることにより,これまで以上にSLAのプロセスやメカニズムを深く理解できるようになるはず。


--------------------


田嶋幸三 (2007). 『「言語技術」が日本のサッカーを変える』 東京: 光文社.


本書は,サッカーを含めたスポーツをはじめ,広く社会において,自らが考えて判断を下す「自己決定力」がとても大切であり,学校や家庭においても,そうした能力を育む努力や工夫を重ねることが重要だとしている。著者は,世界との差は「論理的な思考」と「判断力」だとしているが,奇しくも次期学習指導要領で新しい英語科目として導入が予定されているのは「論理・表現I,II,III」。


ちなみに10年ほど前,三森ゆりか (2006) 『外国語で発想するための日本語レッスン』(白水社)の書評を『英語教育』(大修館書店)に書かせていただいたが,著者の三森氏は日本サッカーの代表選手やコーチらを対象にしたセミナーや指導者研修で,「言語技術」のトレーニングを担当されている。


--------------------


Yeldham, M. (2016). Second language listening instruction: Comparing a strategies-based approach with an interactive, strategies/bottom-up skills approach. TESOL Quarterly, 50, 394-420.


リスニング指導において,方略指導を重視したアプローチとボトムアップ的な指導と方略指導を組み合わせたアプローチ(本論では,インタラクティブ・アプローチと呼んでいる)のどちらが効果的かを検証したもの。プレ-ポスト調査による実験デザインを組み,ANOVAによってグループ内,グループ間の比較を行っている。結果として,初級学習者には方略指導をベースにしたアプローチの方がより効果が見込まれることを報告している。全体として簡潔で読みやすいだけでなく,データ分析のセクションなどはとても分かりやすく記述されており,院生などが論文を書く際にも参考になる。


--------------------


Derrick, D. (2016). Instrument reporting practices in second language research. TESOL Quarterly, 50, 132-153.


研究論文において,心理尺度などを含めた測定具に関する報告の「透明性」はその研究を解釈する上でも,のちの研究に利用する上でも重要な意味を持つ。とりわけ,後者の場合,他の研究者が信頼性の低い尺度を使って新たに調査を実施するといった無駄な努力を避けることにつながる。本論は,海外の主要な3つの学術誌に過去5年のうちに掲載された論文385編を対象に,測定具の起源,開発プロセス,パイロット調査,信頼性などがどの程度報告されているかを明らかにし,現状の問題点と今後の課題について述べている。


--------------------


桐村亮・清水裕子 (2016). 「卒業3年後の経済学部生を対象とした質問紙調査の分析」『立命館経済学』第64巻第4号, 75-87.


卒業後3年を経過した社会人を対象とした質問紙調査において,一般的な設問に加えて英語の使用実態などを合わせて尋ねたもの。身近な「先輩」を対象とした調査は,現役の学部生にとっても学習目的の自覚化を促す貴重な情報となり得る。最終的に調査の協力が得られた125名(回収率15.4%)の回答結果からは,大学時代に力を入れて取り組むべきだと思うが,自分は力を入れなかったと答えたものとして,海外留学,英語,資格取得などが挙げられたり,過去1年間に仕事で英語を使ったものと使わなかったものの間には,仕事の満足度や仕事への姿勢において差が見られたりなど,学生が自らの進路や学習目的を考える上でのヒントがいくつも浮き彫りにされている。


--------------------


浦野研・亘理陽一・田中武夫・藤田卓郎・高木亜希子・酒井英樹 (2016). 『はじめての英語教育研究: 押えておきたいコツとポイント』 東京: 研究社.


これから英語教育に関する研究を取り組もうとする読者を対象に書かれたもの。著者らが述べているように,どのように研究課題を設定するのか,先行研究をどう集め,どうまとめるのか,といった「研究の入り口」部分をとりわけ丁寧に解説している。取り上げられている例も英語教育の研究がほとんどであり,その分野を専攻する読者にとっては,自らの経験に照らし合わせやすく,より身近に感じながら読み進められる内容になっている。なお,類書として,本田・他 (2014). 『日本語教育学の歩き方: 初学者のための研究ガイド』(大阪大学出版会)を読むと,両者を補完的に比較・検討でき,より深い理解につながるものと思われる。


2016年7月

Plonsky, L., & Derrick, D. (2016). A meta-analysis of reliability coefficients in second language research. Modern Language Journal, 100, 538-553.


本論は第二言語習得研究,とりわけ量的アプローチを用いた研究の中でも信頼性係数に焦点を当て,尺度の信頼性(内的一貫性),評価者間信頼性,評価者内信頼性を報告している研究のメタ分析を行ったもの。ただ単に信頼性が「許容できる」「低い」といった全体的/平均的な傾向を明らかにするだけではなく,研究の特徴,信頼性の種類や対象となるスキルによって,得られる信頼性係数はどの程度異なるのか,またそれはどういった要因の影響によるのかを検討している。なお,著者らが本研究を行うにあたって開発したデータのコーディングの枠組みは,他の研究をまとめる際にも非常に参考になる。


--------------------


Baker-Smemoe, W., Dewey, D., Bown, J., & Martinsen, R. (2014). Variables affecting L2 gains during study abroad. Foreign Language Annals, 47, 464-486.


留学を通じた語学力の向上は,これまでさまざまな側面(例えば,年齢・性別など学習者の属性,滞在期間,滞在中の言語使用など)から調査・検討されてきた。しかし,多くの研究では1つの留学プログラムを対象として,特定の要因だけに焦点を当てる傾向があった。そのような課題を克服すべく,本研究では計6つのプログラムに参加した大学生を対象に,彼らの語学力向上に影響を与えた要因を包括的な観点から検証している。結果として,異文化の感受性(intercultural sensitivity)とソーシャル・ネットワーク(social network)が語学力の向上と強い関連を持っていたことが明らかとなった。年齢・性別や第二言語を話した時間よりも,親しい友人と深い会話をしたりすることの方が重要な役割を果たす可能性があるといったことは,留学前プログラムの内容を考える上でも示唆に富む。


--------------------


Yashima, T., MacIntyre, P., & Ikeda, M. (in press). Situated willingness to communicate in an L2: Interplay of individual characteristics and context. Language Teaching Research, 21.


これまでの多くのWTCに関する研究は,特性(trait)としてのWTCを量的な手法を用いて検討するものが大半を占めてきた。本研究では,状態(state)としてのWTCにも焦点を当て,両者がどのように相互作用しながら実際のコミュニケーションに影響を与えているかを調査し,結果として,周りの他者の反応や沈黙などコンテクストが果たす役割の大きさを浮き彫りにしている。


本研究のように,今後の個人差研究では,学習者が特性として有する(比較的安定した)個性・適性と学習者が置かれた特定のコンテクストとの関連を扱った研究が増えるものと考えられる。これ自体はとても良いことだと思うが,学習者が置かれる状況は千差万別であり,個々のコンテクストを考慮する研究が増えることで,結果としてどのように「理論」にフィードバックされ,精緻化がなされていくのか,個人的にはその点にも関心がある。


--------------------


Gignac, G., & Szodorai, E. (2016). Effect size guidelines for individual differences researchers. Personality and Individual Differences, 102, 74-78.


近年,実証研究においては効果量の報告がほぼ義務化しつつある。一般的には,Cohen(1988)による基準(r = .10, .30, .50)が広く参照されているが,本論ではこれまでの研究をメタ分析した結果に基づき,とりわけ個人差を対象とした分野ではこの基準は厳しすぎること,したがって,もう少し緩やかな基準(r = .10, .20, .30)を用いるべきことが提案されている。


--------------------


Kikuchi, K. (in press). Reexamining demotivators and motivators: A longitudinal study of Japanese freshmen's dynamic system in an EFL context. Innovation in Language Learning and Teaching, 11.


本研究は大学生英語学習者の動機づけの変化を約10ヵ月にわたる縦断研究から記述・分析したもの。調査は35項目からなる質問紙とグループによるインタビューを計7回実施することで行われた。結果として,5つの学習者タイプが同定され,各々についてインタビューの概要をcognitive mapにまとめ,DSTの観点から考察が加えられている。学習者の動機づけは学習が行われるコンテクストに大きく影響を受けており,その影響が「動機づけ要因」として働くか,「動機づけ減退要因」として働くかは学習者により異なっていた。このことは,いずれかの要因を特定して,ただ単にリストアップするだけではあまり実践的な意味はないことを示している。意外と忘れられがちだが,とても重要なポイント。


2016年6月

今井むつみ (2016). 『学びとは何か: <探究人>になるために』 東京: 岩波書店.


本書は,学びのプロセスやメカニズムを認知科学の視点から検討したもの。大きなテーマの1つは,学びを極めた,いわゆる「熟達者」とはどのような特性を持っているかというもの。一般に,熟達者はいちいち考えなくても必要な行動を必要な場面で自然と(ある意味,無意識的に)できるような人のことを指すが,認知科学ではこのことを「スキルの自動化」と呼ぶ。スキルが自動化され,熟達化が進めば進むほど,脳における情報処理や脳自体の構造が変化していくことも明らかになっている。


では,どうすれば熟達者になれるのか。まず,練習についてだが,ここでも「10,000時間の法則」が登場する。どの分野でも,いわゆる「天才」と呼ばれる人たちは幼少期からおおよそ10年ほどの歳月をかけて,天才と呼ばれるレベルに達していく(つまり,最初から飛び抜けた才能があったわけではなく,繰り返し練習を積む=スキルの自動化を経て,徐々に「天才」へと近づいていく)。もちろんそのような練習の「量」だけでなく,練習の「質」によっても最終的な成果(到達度)は左右されるが,重要な点は練習の「量」によって「質」が大きく影響を受けるということ。例えば,何もないところから直観力や分析力,創造性などが生まれるわけではなく,それぞれの分野の学習での多大な経験と深い知識があってはじめて,高いレベルの直観が働いたり,鋭い分析ができるようになる。詰まるところ,「学びの達人」になるためには,まずもって学ばなければいけないということ。


2016年5月

渡邊芳之 (1995). 「心理学における構成概念と説明」『北海道医療大学看護福祉学部紀要』 第2号, 81-87.


心理学における構成概念の用法と,その問題点について考察したもの。著者によれば,構成概念はその意味内容から2つに分類される。1つは傾性概念(disposition concept)であり,このような概念の意味内容はほぼすべて「観察」に還元される。もう1つは理論的構成概念(theoretical construct)であり,こちらは観察には還元できない余剰意味を持った概念だと考えられる。ある特定の状況を超えた行動の予測やその行動の原因論的説明ができるのは後者だけであり,その意味において両者の区別は明確に意識される必要がある。


--------------------


渡邊芳之 (1996). 「心理学的測定と構成概念」『北海道医療大学看護福祉学部紀要』 第3号, 125-132.


一般に心理学的な測定では,理論的に仮定される構成概念の操作的定義を行い,それを正確に測定するための尺度を作成し,その尺度によって得られる数値の総和をもって構成概念の測定値と見なす。このようなプロセスにおいては,構成概念と測定結果が一対一に対応していることが理想であるが,実際には操作的定義によって概念の変質が生じたり,状況要因の影響などによって,上記の対応関係が十分に保証されない場合がある。本論では,そのような問題に対処し測定の妥当性を高める方法について,いくつか具体的な解決策を提案している。


--------------------


ManIntyre, P., Gregersen, T., & Mercer, S. (2016). Positive psychology in SLA. Bristol: Multilingual Matters.


ポジティブ心理学とは,セリグマンやチクセントミハイによって広められた心理学の一分野。平たく言えば,「よりよい(良い・善い)生き方とは何か」といった問題やそのような生き方に影響を与える諸要因について,科学的に検証・実証を試みようとする学問。本書は,SLAの分野においてポジティブ心理学に焦点を当てた最初の論文集。本書全体の概略やイントロ的な位置づけを果たす論文に続き,理論研究,実証研究,応用研究に関する論文(計14編)が所収されている。


巻頭のR. Oxfordによる論文は,ポジティブ心理学の枠組みから外国語学習者がどのようにしたらウェルビーイング(well-being)を達成できるかを理論的に考察したもの。関連する先行研究を幅広くレビューし,鍵となる重要な概念を「EMPATHICS」という頭文字でまとめている(例えば,”E”はemotionとempathy,”M”はmeaningとmotivationなど)。いくつかの例外はあるものの,多くの要因はこれまでの応用言語学,第二言語習得研究の中で繰り返し取り上げられてきたものが目立つ。大切なことは,ウェルビーイングとして適応的な発達を遂げていくためには特定の側面だけが優れていればよいというものではなく,多くの側面がバランスよく満たされていることが重要であること(本章の中でも,それぞれの要因が頻繁に相互参照されている),さらにそのような学習者の姿を精緻に描き出すためには,これまで以上にホリスティック(統合的)なアプローチに基づいた研究が必要になることがよく伝わる内容になっている。


--------------------


三宅義和 (2016). 『対談!日本の英語教育が変わる日』 東京: プレジデント社.


プレジデント社が運営するウェブサイト「プレジデントオンライン」で,イーオン社長・三宅義和とさまざまな分野で活躍している11人の著名人との間で行われた対談を1冊の本にまとめたもの。楽天「英語公用語化」の舞台裏とその後,「英語落語」から考える日本人英語の課題,TOEICがこれほど普及したわけ,4技能入試と今後の大学入試改革など,読み物としても興味深いトピックが数多く取り上げられているだけでなく,英語を学ぶ・教える目的を再考する上でも参考になる点が多い。


--------------------


Dörnyei, Z., Henry, A., & Muir, C. (2016). Motivational currents in language learning: Frameworks for focused interventions. New York: Routledge.


著者らが提案する新しい動機づけ概念「directed motivational currents (DMCs)」の概要とその特徴を5つの側面からまとめたもの。概念としてはチクセントミハイが提唱している「flow」に似ているが,DMCは目前の活動に没頭するというよりも,つねに最終的な目標(ゴール)を志向した行動であり,より長期間にわたって取り組まれる行動に着目している点が大きく異なる。さらに,これまでの動機づけ研究がどちらかと言えば,動機(学習目的や学習理由)だけに焦点を当てる傾向に強かったのに対して,DMCは動機と後続の行動を統合的な(一体化した)概念として捉えている。数年前に著者らが提案した「vision」概念の拡張版とも考えられるDMCは,従来の動機づけ概念よりも教室での実践を強く志向したものであり,実際に本書の最終章(第9章)では外国語の教室場面でいかにDMCを作り出すか,具体的な活動例がいくつも紹介されている。全体として,動機づけ的側面を考慮した学習指導を展開する上で,多くの気づきやヒントが得られる内容になっている。


2016年4月

岡田圭子・ブレンダ・ハヤシ・嶋林昭治・江原美明 (2015). 『基礎から学ぶ英語科教育法』 東京: 松柏社.


新学習指導要領に基づいて書き下ろされた英語科教育法のテキスト(関連する類書の中では一番新しいもの)。大きな特徴の1つは,各章に話し合いやディスカッションを促す項目が豊富に設けられていること。学生が自らの学習経験を振り返る活動を取り入れる工夫もされており,その点は従来のテキストとは大きく異なる(とても良いことだと思います)。一方で,これは従来の教育法のテキスト全般に言えるが,多くの項目が並列的に羅列される構成(本書でも全17章構成)となっており,どの項目がより重要なのか,あるいは個々の項目がそれぞれどのような繋がりを持っているのかといったことはあまり明確ではない。このあたりがより明示的に示されると,学習する側(学生)は何を学べば良いのかがより明確になり,結果として,よりmotivatingな内容になり得るのではないかと考える。


--------------------


Mackey, A. (2014). Practice and progression in second language research methods. AILA Review, 27, 80-97.


SLA研究は関連する学問分野(例: 言語学,心理学,教育学,社会学)で用いられてきた研究手法を参考にすることが多いが,それらの分野との大きな違いは方法論そのものを研究対象とする伝統・慣習がないことであり,そのようなギャップを埋めることが本論の動機となっている。具体的には,約50名のL2研究者に彼らが方法論的に面白いと感じた研究や革新的だと感じた研究について答えてもらい,その結果を紹介することを通じて,SLA研究の研究手法の現状と課題,今後の展望について概観している。とりわけ注目すべき点として,コーパスを用いた研究は今後のL2研究で中心的な位置づけを占めるようになる可能性があること,L2研究がさらなる進展を遂げる1つの方向として「collaborative methodological practices」の必要性を主張していることなどが挙げられる。


--------------------


Alrabai, F. (in press). The effects of teachers’ in-class motivational intervention on learners’ EFL achievement. Applied Linguistics, 37.


サウジアラビアで英語を外国語として学ぶ(EFL)学習者を対象に,動機づけ方略の効果を実証的に検証したもの。教師による動機づけ方略の使用が学習者の動機づけ向上につながるかだけでなく,学習者の英語達成度にも影響を与えたかどうかも調べている。実験は2つのステージから成り,はじめに指導する動機づけ方略の同定が行われた。結果として,本調査が実施された学習環境では「学習者と肯定的な関係を築く」「言語不安に対処する」「学習者の自信を高める」などといった動機づけ方略が重要だと認識されていることが明らかとなった。つぎにそれらの動機づけ方略の指導と効果検証が行われた。具体的には,約10週間にわたって実際の英語授業の中に「motivational moments」という時間を設け(各回1分程度),動機づけ方略を毎回1つずつ取り上げて紹介・実践するようにした。その効果は質問紙や授業観察,熟達度テストを用い,準実験デザインによって検証された。動機づけ方略の指導効果を実証的に確認しているだけでなく,動機づけのような心理構成概念を多様な観点から縦断的に複数回にわたって測定・評価し,さらにそのデータを複数の統計的手法を利用して精緻に分析している点は,類似した調査を計画・実施する上で大いに参考になる。


--------------------


Cameron, L. (2015). Embracing connectedness and change: A complex dynamic systems perspective for applied linguistic research. AILA Review, 28, 28-48


ダイナミックシステム理論を応用言語学の分野に(おそらく)初めて本格的に紹介したLarsen-Freeman & Cameron(2008)の著者の1人であるCameronが,自身の専門とする談話に関する現象に焦点を当てながら,先の主張をより発展させようとしたもの。具体的には,日常で経験した出来事(Cameron自身のケニアでの経験も含む)がいかにダイナミックシステム理論の考え方を利用することでうまく説明・解釈できるかを述べ,本理論で用いられる重要概念(system, agents, timescales, adaptationなど)を簡潔にまとめ,応用言語学に関する現象を記述するモデルとして「discourse dynamics model」(それぞれのローカルな文脈で展開されるディスコースがダイナミックに相互作用しながら特定のパターンを生じさせ,最終的には安定した状態として立ち現れていくプロセスをモデル化したもの)を提案している。


--------------------


Collins, L., & Muñoz, C. (2016). The foreign language classroom: Current perspectives and future considerations. Modern Language Journal, 100 (sup.), 133-147.


外国語(FL)としての教室環境下で行われた教授学習研究(なかでも2001年から2014年までにMLJ誌上に発表されたもの)に焦点を当て,それらの現状と展望についてまとめている。研究の記述統計からは,全体として成人(大学生)を対象とした研究(全体の65%),対象言語として英語やスペイン語を取り上げた研究(それぞれ35%,20%),外国語でのインプットが限られた研究(週平均だと2~3時間)が多いことが分かる。著者らはとりわけ最後の点を問題視しており,その解決策の例としてテクノロジーの活用などを挙げている。第二言語(SL)やバイリンガルでの教室環境を対象とした研究は除かれているものの,研究が行われた(=論文が発表された)国として,アメリカの次に日本が登場している(研究全体の10%を占める)というのは心強い(励まされる?)結果かもしれない。


2014年度~2015年度

2015年4月~2016年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。


2014年4月~2015年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。